2022.03.24 アクティブラーニングとは?文部科学省も認めるメリットを事例を交えて解説
近年注目を集めているアクティブラーニングは能動的学修と訳されるように、学ぶ側からも積極的に働きかけながら学修に取り組む方法です。能動的な学びが重要であることは想像しやすいと思いますが、実際に学習者を能動的にさせるというのは簡単なことではなく、頭を悩ませている方も多いと思います。そこで、本コラムではアクティブラーニングの概念や、それを通じて得られるメリット、アクティブラーニングを実施する際のポイントなどを解説します。
アクティブラーニングとは
よく耳にする言葉のように感じますが、そもそもアクティブラーニングとはどういったものでしょうか。アクティブラーニングの定義と浸透した背景を概観しましょう。
アクティブラーニングの定義
アクティブラーニングは能動的学修と訳されるように、学ぶ側からも積極的に働きかけながら学修に取り組む方法のことです。従来の教育における一般的なスタイルは、例えば、学校ならば教員が黒板の前で講義を行い、生徒たちが聴講する形が一般的でした。生徒は回答を指名されたり与えられた課題について取り組んだりすることはあっても、基本的には受け身です。
一方で文部科学省ではアクティブラーニングを「学生にある物事を行わせ、行っている物事について考えさせること」と定義しています。体験型・参加型あるいは課題解決型の学びの形であるともいえ、一方通行の講義ではない能動的な学修法だといえるでしょう。
アクティブラーニングが広まった背景
アクティブラーニングの広がりは、2012年8月の中央教育審議会答申でその重要性について触れられたことに始まります。そこでは主に大学教育の現場において、学生が主体的・能動的に学んでいくことの必要性が指摘されました。それまでの大学の講義は、学生にとってそのほとんどの時間が単純な聴講に終始するということは珍しくなく、自発的に思考して相互に知的探求を行う機会を喪失している懸念があったといえます。これを受けて文部科学省は、教える側と学ぶ側が双方向での積極的にアプローチできるよう、アクティブラーニングの導入を推進しました。
また、ここには今まで社会人として求められてきた人材像が、近年では変化してきたという価値観の変化もあります。一昔前は指示されたことを正確かつ素早く実行できるオペレーション能力が評価される時代でしたが、デジタル社会となった近年では自ら考えてさまざまな課題解決に取り組み、自発的に何かを生み出せる人材への期待が高まっている傾向があるのです。
アクティブラーニングが広まった背景には、このように自ら考える力を養成する効果への注目がありました。
アクティブラーニングのメリット
では、アクティブラーニングには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
以下にその代表的な例を挙げました。
主体性の体得
アクティブラーニングは学ぶ側が積極的に知識や経験の修得を目指していくため、主体的な活動となります。こうしたことから受け身ではない、自らが主としての自覚をもって行動するという習慣を身につけられることがメリットとなります。
アクティブラーニング特有の能力の体得
アクティブラーニングではその学び方を通じて、特有の能力を体得することが期待されています。以下に代表的な3例を挙げました。
1.グループで協調できる能力
2.自ら問いを見出す能力
3.課題解決のために動く能力
1.グループで協調できる能力
アクティブラーニングはグループ単位で取り組むことも多いです。ある問題に対して一人で考えるのではなく、グループのメンバー間で議論や考証を重ねながら取り組みます。そのため協調能力が身につくといわれています。
2.自ら問いを見出す能力
アクティブラーニングは主体性にも直結する能力です。自発的な学び方を進めるうちに自然な流れで自身の疑問が生じることを意味しています。一方通行の講義や授業よりも自らが見つけた問いを見出す機会が多いのが、アクティブラーニングの特性の一つといえるでしょう。
3.課題解決のために動く能力
現代社会が求める人材に不可欠な能力の一つです。アクティブラーニングでは、主体的に課題解決のための行動を起こす能力が身につきやすいといわれています。
アクティブラーニングを実施する際のポイント
アクティブラーニングには、実施の際にいくつかの重要なポイントがあります。そのうち主要な2点をご紹介します。
教える内容の緻密な設計
アクティブラーニングでは、いかに学ぶ側の主体性を引き出すとはいえ、そのための導線は教える側がしっかりと設計しておく必要があります。特に初めてアクティブラーニングに取り組む人たちが対象である場合は、入念な計画を立てましょう。学びを進めていく過程で、自然に自発的な考え方や行動がとれるようになるカリキュラムを組むのが理想的です。
対象者の興味・ニーズの把握
アクティブラーニングは、指導者側から学ぶ側への知識付与がメインではないものの、指導者側が何もしなくてよいという訳ではありません。学ぶ側にどのような興味やニーズがあるのかを把握するのが重要です。学習に対しての自発性や主体性を引き出すためには、何をおいてもその課題や取り組みを面白く感じてもらうことが望ましいといえます。興味・関心が学びへの積極性を促し、そこから自発的に疑問を生じて課題解決のために試行錯誤するという好循環が狙いだからです。
アクティブラーニングの事例
国を挙げて推奨されているアクティブラーニングの導入ですが、成功例もあればそうでなかったケースもあります。以下に両者の事例を挙げてみましょう。
成功事例:企業カルチャーを浸透させるケース
アクティブラーニングは、企業カルチャーを浸透させるために活用できます。
ソニー銀行株式会社では、新人社員に対して「データサイエンスブートキャンプ」などの研修でアクティブラーニングを導入しています。
研修を通して実際にデータ分析を行って問題を解決する習慣を身につけ、配属後に社員とコミュニケーションを取りやすい環境を構築します。データドリブンな意思決定の文化をアクティブラーニングによって新入社員に浸透させている成功例です。
※参考:ソニー銀行株式会社
成功事例:戦略立案力や実践力の高い人材を育成するケース
経営層や意思決定を行う人材を育てる場合にも、アクティブラーニングは有効です。
キヤノンマーケティングジャパン株式会社では、リーダー層に対して「LEAD Program」というプログラムを通してアクティブラーニングを実施しています。リーダーシップを引き出し、戦略立案力や実践力の強化を図ることで、次世代を担う人材を育成している事例です。
※参考:キヤノンマーケティングジャパン株式会社「CSR活動 人権と労働 人材育成・自己成長支援」
失敗事例:内容が浅くなってしまうケース
多くのメリットがあるアクティブラーニングですが、体裁だけを整えても、学ぶ側へ真意が伝っていない場合には失敗してしまうこともあります。
最も起こりがちなのが、議論の前提を各自が的確に把握しないまま進めてしまい、個々の発言が活発にならないことです。また、グループワークという形式にこだわるあまり議論が深化せず、表面的な意見交換に終始してしまうこともあるでしょう。このようにアクティブラーニングが失敗してしまうケースは、学ぶ側の意欲というよりも、教える側の舵取りがうまくいっていないケースが想定されます。
学ぶ側が相互に自発的な学びを求めるような好循環を得るためには、適切なカリキュラムと導線、そして、それらをしっかりとコントロールする人物が必要です。
一方的な講義形式から脱却するためには、アクティブラーニングを行うためのしっかりとした計画と準備が不可欠といえるでしょう。
まとめ
伝統的な講義形式での学びとは異なるスタイルのアクティブラーニング。学ぶ側の主体性を引き出し、教える側も多くの気付きを得られるこの学習法は、学校だけでなく企業からも注目を集めています。アクティブラーニングを成功させるためには、「教える内容の緻密な設計」や「対象者の興味・ニーズの把握」がポイントとなります。アクティブラーニングが気になる方は、こういった視点も念頭において、導入を検討してみてはいかがでしょうか。