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2017.08.25 弁護士からBCGを経て、スタートアップへ。その先に見るもの [freee桑名直樹氏インタビュー]

freee桑名直樹

コンサルティングファーム卒業後、スタートアップに参画する選択肢が増えてきている。ボストン・コンサルティング・グループ(以下BCG)から、クラウド型の会計ソフトや人事労務ソフトを提供する「freee」(クリックで同社サイトにジャンプします)に移り、法務本部長兼事業開発部長となった桑名直樹氏もその1人。

 弁護士という専門性を活かしつつ、リーガルの枠を超えて、ダイナミックにビジネスに関わっていきたいと考え今の桑名氏。これまでのキャリアでは何を行い、どう考え、さらに今後どう考えているのか? 話を聞いた。

ビジネスによりダイナミックに携わりたいと弁護士からBCGへ

 桑名直樹氏は小学生の時に弁護士に興味を持ち、そのまま東大法学部、東大法科大学院と法曹の道へと進む。司法試験合格後、弁護士時代は企業法務を担当してきた。

 企業法務を担当する多くの弁護士がそうであるように、契約書、リーガルオピニオンの作成、訴訟対応などクライアントの裏方に徹してきた。ビジネスのリーガル的な側面に触れられ、弁護士の仕事は面白かった。

 ただビジネス全体を考えた時に、リーガル的な側面は、ビジネスのほんの一部であることも身をもって感じた。「もっと顧客に距離が近く、よりダイナミックにビジネスに携わっていきたい」との想いが芽生えてBCGへと転じた。

桑名直樹
プロフィール:桑名直樹氏。東京大学法学部卒業、東京大学法科大学院卒業、司法試験合格、弁護士に。法律事務所勤務を経てボストン コンサルティング グループ入社。金融、保険業界などを主に担当し、2017年にfreeeに参画。現在は法務本部長兼事業開発部長を務める。

リーガル的な側面はビジネスのほんの一部。弁護士からコンサルタントへの転身し、もっとダイナミックに。

 弁護士から戦略コンサルタントの転身とは実際どうなのだろう?

 桑名氏によると当時のボストン・コンサルティング・グループは300-400のコンサルタントがいたというが、その中で法曹資格を持ち、企業法務を弁護士事務所で経験したコンサルタントは複数名いたそうである。

 典型的な「キャリアチェンジ」であるものの、桑名氏は弁護士からコンサルタントへはすんなりと転身できたという。BCGでは金融、保険業界などを主に担当。これまでの経験も考慮されコンプライアンス、ガバナンス、レギュレーション関係を任されることも多かった。

 弁護士とコンサルの親和性について、桑名氏は以下のように語る。

 「弁護士とコンサルタント、どちらもロジカルな点は同じです。弁護士は文章作成能力が非常に高い。コンサルもその能力は必要とされ、いずれの職業も“誰が読んでも同じ意味に解釈される、正確で論理的な文章を作成する能力”が求められる。
BCGでもアソシエイトのうちはドキュメント作成の仕事は多く、とても役に立った。コンサルファームでは弁護士出身者はありがたがられるのではないでしょうか」

実行まで関われる、よりチャレンジングな仕事をしたい

 桑名氏はコンサルへの転職を「ビジネスの考え方を実践で身につける場」とも考えていたこともあり、BCG入社約2年で昇進したことを機に、ポストコンサルキャリアを意識するようになっていた。

 「コンサルは“実行”までは行わない。自分で何か形にできる事をしたいと考えるようになったのがきっかけです」

 意識したポストコンサルタントキャリアはPEファンド、スタートアップなど。面白い話があると聞くようにしていた。結論としてはfreeeを選ぶことになったのだが、桑名氏が考えたポストコンサルの選択の基準はどのようなものだろうか。

 「スタートアップはボラティリティはあるものの、多種多様な人材や業務と関われるおもしろそうな環境で働くことができる等、他とは違う経験ができる。freeeは日本では他の人はあまりやっていない先端のビジネスで、将来のスケール感もあっておもしろい分野だと感じた。すでに3人のBCG出身者がいたのだが、“来たければ来れば”という誘われ方をしたのも興味を引いた点です」

桑名直樹
インタビューに答える桑名氏

今は事業開発が業務の半分以上

 桑名氏は現在freeeで法務本部長兼事業開発部長を務める。

 参画当初は法務部門の立ち上げが中心で業務の8割を占めた。契約書など法務文書の電子化に取り組むなど、法務部門でのプロジェクトを進めた。

 一方、最近では事業開発部長を兼任。この辺り、全く違う職種の兼任はベンチャーらしい。事業開発部長の仕事では金融機関などとの提携戦略・実行の指揮を執っており、こちらが逆に業務時間の半分以上を占めるようになってきた。

 先日もクレジットカード会社と組んでオリジナルのクレジットカードを発行することを発表していたが、そういった提携のプロジェクトを手掛ける。今後も銀行・クレジットカード以外の業種との新種のサービスなども考えているという。

 サービス価値向上のための企画から実行完了まで全てをやっている。計画が完了したらfreeeの機能やサービスの付加価値が向上する仕事だ。

 昼間は事業開発、夕方からは法務の仕事をするようにしているため、マルチタスクで頭の切り替えが大変というものの、充実した日々を過ごす。

 業務はハードだが、社内外の多くの人と接することも多い。特に対人スキルの面でBCG時代の経験は、freeeに来てからも活かされている。

 「コンサル時代も含めて理論だけでは人間は動いてくれない。まずは相手に好かれるように努力をすべきで、事業会社においては、さらに気を配っている」と。
 
 どれだけ良い戦略を立案してもクライアントや第三者に動いてもらえないと成果には結びつかない。コンサルタントの多くが持つこの経験は、事業会社に行っても活かされているようだ。

スケールしきったら自分で会社をやるのもあり

 この先のキャリアをどう考えているのかを聞いてみた。

 「freeeを成長させることに全力を尽くします。それを前提にした話ですが、freeeが成長しきる未来が来てしまったら、自分で何か新しい会社を経営することもあるかもしれません。最近はそういうことも考えるようになってきました」

 弁護士の上に、戦略コンサルのキャリアを積み上げ、ベンチャーへ転職。その先には自ら事業を立ち上げたいという想いが桑名氏には沸き始めたようだ。

 大企業でさえも、法務部門がリードしてプロジェクトをやる企業は少ないというが、前述のとおり、freeeでは桑名氏が主導し「法務に関する文書を、全て電子化することに取り組む」という先進的な取り組みを始めている。契約書締結の確認から合意、電子認証、データ保管までの一連を電子化する。個人事業主との契約が多いfreeeにおいて、契約書の電子化は相当な業務効率化につながる。

 「クラウドの会社なのに、紙でやってるのおかしくない?」というCEOの意見から始まった試み。データでのやり取りが法律上の有効かなどの議論は、電子署名法などもあり、桑名氏の得意分野。

 法律関係の手続きには、このように若干ではあるものの電子化が進んでいる分野もあるにはある。ただし、桑名氏は、「M&A、破産の申し立てなど、もっと電子化されてもよい手続きはある」と言う。そのようなリーガルテックのサービスを企画し作り上げ、使う人をハッピーにするようなサービスを自ら立ち上げるような次のキャリアが描けたら良いと考える。税務・会計分野でfreeeが革新的であるように、弁護士分野でやってみたいと。

 自らの積み上げたキャリアを最大限に活かし、かつ、自分が興味のある分野にキャリアを進める。そんな桑名氏の今後の活動に期待したい。

2017年8月
コンサル業界ニュース
編集部による取材

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