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2021.11.02 日本企業がオープンイノベーションに失敗する理由

日本企業がオープンイノベーションに失敗する理由

  

昨今、日本企業が注目している取り組みにオープンイノベーションがあります。外資系企業の成功事例が多く語られる反面、日本企業のオープンイノベーションの取り組みはなかなか上手くいっていない現状があります。そこで今回は、米国製造業で約10年間、ドイツシステム会社で約5年間勤めた筆者の経験も交えて、日本企業がオープンイノベーションに失敗する理由について解説していきます。

目次

・オープンイノベーションとは
 - オープンイノベーションとクローズドイノベーションの違い
・日本企業のクローズドイノベーションが上手くいかなくなった理由
 - 市場ニーズとのズレ
 - 市場規模のギャップ
・日本企業のオープンイノベーションが失敗する理由
・オープンイノベーション成功の秘訣
 - 3社以上で協議する
 - ヨコの連携が得意な人を参加させる
 - 成功事例と失敗事例の両方から学ぶ
・まとめ

  

  

オープンイノベーションとは

オープンイノベーション(open innovation, OI)とは、米国のヘンリー・チェスブロウ教授が提唱したコンセプトで、組織内部のイノベーション促進のため、外部資源を活用して自前主義から脱却することを目指すものです。

ヘンリー・チェスブロウ教授
ヘンリー・チェスブロウ教授(画像引用)

従来、研究開発は自社のみで行うことが当たり前でしたが、近年は顧客の求めるレベルが高まり、許容される時間的制約も厳しさを増しています。そのような環境において、顧客に受け入れられる製品・サービスを開発するために社外と連携して活路を見出そうというのがオープンイノベーションの目的です。

「イノベーション」といえば聞こえは良いですが、オープンイノベーションが注目されるのは、「自社だけではどうしようもない…」という焦りや危機感を抱える企業が増えている現れともいえるでしょう。

実際、「家電製品で機能をどんどん高性能にしたけれどあまり売れない」とか、「他社で売れている製品を参考に新製品を開発したけれど思ったほど売れない」というケースは、ビジネスニュースに敏感な方であればよく目にされていることと思います。

  

オープンイノベーションとクローズドイノベーションの違い

オープンイノベーションと対比する概念として「クローズドイノベーション」があります。オープンイノベーションが社外連携に活路を見出そうという考え方であるのに対し、クローズドイノベーションは自社のなかで新しい製品やサービスを生み出そうとする、いわば自前主義の考え方です。

どちらが良いか悪いかといえば、両方にメリットデメリットがあります。オープンイノベーションの場合、様々なプレーヤーが関与することでコミュニケーションは複雑になり、また、資本の関与が生じる場合はより複雑な調整が求められることになります。対して、クローズドイノベーションは自社内で完結するため、機動性の面ではオープンイノベーションに勝ります。

 

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日本企業のクローズドイノベーションが上手くいかなくなった理由

従来、日本企業が取り組んできたやり方は、クローズドイノベーションですが、昨今うまくいかないケースが増えています。先述した通り、クローズドイノベーションは自社のなかだけで研究開発を行うものですが、なぜそれまで上手くいっていたクローズドイノベーションが立ち行かなくなってしまったのでしょうか。その理由は2つあると考えられます。

  

市場ニーズとのズレ

クローズドイノベーションが上手くいかなくなった1つ目の理由は、社内検討チームの考え方と市場ニーズとの間でズレが生じていることです。両者のズレの原因としては、チームの固定化や高齢化、市場に対するニーズを広い切れていないことなど、様々です。市場ニーズとズレた仮説から生み出された製品が売れないのは当然です。

  

市場規模のギャップ

クローズドイノベーションが上手くいかなくなったもう1つの理由は、想定していた市場規模と実際の市場規模とのギャップです。

昭和時代は他人と同じ商品を求める顧客が多かったのに対し、令和時代は他人とは異なる商品を求める顧客が多いといわれています。つまり、従来と同じような価値観で市場を捉えて製品開発を行うと、実際には市場はより細分化されており、「想定したよりも顧客がずっと少なかった」という結果につながる恐れがあるのです。

また、市場規模のギャップが生じる背景には、世代間の価値観の違い以外に「市場の成熟度合いの変化」があげられます。市場の成熟度合いが変化すると需給バランスが変わるため、製品やサービスの開発においては市場の成熟度を見定めることが重要になります。

スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャーズ教授が提唱した「イノベーター理論」を例にあげると、製品の採用者はイノベーター(革新者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティー(前期追随者)、レイトマジョリティ(後期追随者)、ラガード(遅滞者)に分けられ、製品はイノベーターから順に普及していきます。成熟期は新しい製品やサービスの採用に消極的なレイトマジョリティや最も保守的な顧客であるラガートも採用者になっている可能性が高いフェーズのため、そのような市場に製品を投入しても思うように売れないわけです。

こうした背景もあり、企業はイノベーションの種を社外に求める「オープンイノベーション」に期待を抱くようになったのです。

  

  

日本企業のオープンイノベーションが失敗する理由

日本では、欧米企業のオープンイノベーションに関する成功事例がよくとりあげられる反面、日本企業の成功事例は少なく、その理由がいろいろ議論されています。

欧米と日本の両方の立場を知っているものとして、オープンイノベーションが失敗する本質はアライアンス戦略の欠落にあると考えています。日本企業は、他社と協力して1つのテーマに取り組むというやり方にまだ慣れていないのです。

日本企業の多くはピラミッド型の組織であり、企業間の付き合いも依頼主や下請けなど上下関係がはっきりしています。オープンイノベーションは、それぞれの企業が役割分担して協業するスタイルですから、社外との協力関係を作るうえでピラミッド型組織の価値観や考え方を変える必要があることに気づかなければなりません。

例えば、大企業とベンチャー企業が協業する場合、大企業はベンチャー企業を下請け業者のように扱うケースがあります。大企業側は、契約や条件も高飛車で上から目線となり、会議でも一方的に質問し続けるということを当然のように考えがちです。これでは、オープンイノベーションなど成功するわけがありません。

 

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オープンイノベーション成功の秘訣

私がアライアンスを担当していた頃の経験から、ここではオープンイノベーションを成功させる秘訣をお伝えしたいと思います。

  

3社以上で協議する

オープンイノベーションを成功させる秘訣の一つ目は3社以上で協議することです。2社間だと上下の構図になりやすいのですが、3社以上だと1社が調整役となったり2社以上が協力して対抗したりというフラットな構図となります。

合意形成には時間も手間も掛かりますが、その手間と時間は成功するために必要です。

  

ヨコの連携が得意な人を参加させる

オープンイノベーションには、参加するメンバーの意識や年代も重要です。根拠のないプライドや、スキルや知識に紐付かない肩書、昔の武勇伝にこだわるようなタイプの人はオ向いていないでしょう。オープンイノベーションはヨコの連携が重要なので、フラットなコミュニケーションができる人が向いているといえます。

  

成功事例と失敗事例の両方から学ぶ

「外資系企業は総じてオープンイノベーションに成功している」という記事をときどき見かけますが、それは成功例しか見ていない人の大きな勘違いです。正しくは、数多くの失敗から学習してようやく成功するケースが増えてきたという状況です。失敗から学んだからこその成功です。アライアンスやオープンイノベーションは、誰でも簡単に出来るわけではありません。また、クローズドイノベーションがダメというわけでもありません。従来のやり方では、スピードや多様性が足りないという現実があるだけです。そしてもちろんオープンイノベーションにもデメリットがあります。例えば、長年蓄積してきた自社のノウハウや情報の一部が社外へ出ることで自社の優位性が失われることがあります。

このような観点からいえることは、成功事例と失敗事例の両方から学ぶことの大切さです。両方から学ばなければ、失敗につながる偏りを招くリスクがあります。

IT業界やコンサルティング業界では、成功事例を作ることが最も重要だと考えているようですが、製造業では必ずしも成功事例だけが重要とは考えていません。成功のゴールや狙いが企業によって異なるため、参考にはなるけれどマネしても自社の成功とはならないケースの方が多いからです。システムは稼働すれば成功で、コンサルティングは分厚いレポートが提出されれば社長や役員は満足かもしれませんが、ものづくりの現場の業務はあまり変わりません。現場で大切なことは、業務が滞りなく進み、技術やノウハウが継承されて継続的に結果が出ることです。結果を出し続けるためには、成功事例のみならず失敗事例も良く知っておく必要があります。

  

正しい答えより、できないことを知る

数学や物理学には、必ず正しい答えがありますが、現実世界を相手にしている工学や日々のオペレーションでは正しい答えより、できないことを知っている方が重要です。理由は分からなくても、使えるノウハウや作れる技術が重要だからです。成功だけを知っている人より、たくさんの失敗を経験した人の方が正しい道筋を示すことが出来ます。私は、これこそがオープンイノベーションに取り組む最も重要なポイントだと考えています。

  

  

まとめ

今回は、オープンイノベーションを取り上げました。すでに多くの日本企業がオープンイノベーションに取り組んでいますが、従来の考え方や組織体制のままでは難しい取り組みです。まずは認識を変えるところから始めて欲しいと思います。また、成功事例から学ぶことは否定しないのですが、これをマネしただけだと大きな結果は得られません。成功事例を真似しても、超えられないことが多いからです。さらに、人と組織を鍛えるために成功より失敗から学ぶ経験が必要です。失敗に強い人や組織は、どんな困難にも立ち向かうことが出来ます。オープンイノベーションとは、そうした人たちとの体験や苦労を共有する場としても有効です。

  

 

著者紹介

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

鍋野敬一郎

同志社大学工学部化学工学科卒業(生化学研究室)、1989年米国総合化学デュポン社(現ダウ・デュポン社)入社、1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(プロセス系:化学プラントや医薬品開発など、ディスクリート系:組立加工工場や保全など)の業界および業務、システムの調査・企画・開発・導入の支援に携わる。2015年より一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)サポート会員となり、総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリストなどを務める。その他、エッジAIベンチャーのエイシング社アドバイザーなど。
著書:「デジタルファースト・ソサエティ」日刊工業新聞社 (2019/12/11)
共著:福本 勲  (著), 鍋野 敬一郎 (著), 幸坂 知樹 (著)

 

 

 

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