2017.11.22 ~INTERVIEW~ 経営共創基盤の10年【第4回】コンサル業界の枠を超えたプロフェッショナルファームの実像
戦前から続く旧弊を産業再生機構時代から温めてきたアイディアで突破
聞き手:福島交通、茨城交通は一度は、会社更生、民事再生に至った企業で、みちのりホールディングスがスポンサーとして事業再生を行ったと伺っています。この2社の事業再生では、投資前に持っていた再生後のアイディアを形にできたということでしょうか。
松本氏:両交通会社とも、バス、タクシー、鉄道などの事業を持っていましたが、共通点が多いのがバス会社。売り上げの大半はバス事業(乗り合いバス、高速バス、貸し切りバスなど)で、市場のルールや置かれた環境はほぼ同じです。だから、アイディアは活かせました。
みちのりグループでは、一つの会社のオペレーション改善が他社でも適用できる仕組みになっています。例えばどこかのバス会社で事業改善し、横に展開して他の会社で取り込んだとします。そうすると、全体の生産性やその他の改善を短期間で共有。スピーディーに展開できて、サスティナビリティにつながっていきます。
第二次世界大戦前に、国策として事業体を統廃合させた名残が、地方公共交通にはあります。そのせいで、一つの県内が3~5の営業エリアに分かれて、事業体3~5社が存在。一社が行った経営改善の横展開がしづらい。しかし、横展開をしていかないと地方公共交通は産業ベースで強くなりません。
IGPIでは、県境を接するバス事業会社を持ち株会社(みちのりホールディングス)の傘下に入れて、改善事項を横展開することで良い結果をもたらすことができたのです。
乗客数はピーク時の100億人から40億人へと減少しているバス事業
聞き手:ただ、それ以前に人口減少が進み、自動車など代替手段も増えたため、利用者が下がっている地方においては右肩下がりになってしまう、公共交通産業を再生させること自体が困難に思えますが。
松本氏:バス事業は、1960年代のピーク時の乗客数約100億人から現在は40億人と減少。100億人時代のマーケットを相手にした経営者は成功の呪縛に囚われています。加えて事業再生が必要なフェーズだと、財務的に窮境で経営者は完全に追い込まれて打ち手がありません。
そこで、財務改善の後に、日々のPDCAを強化し、まず当たり前のことをできるようにしていく。そして、事業再生フェーズを乗り切るようにします。
「赤字路線だから申し訳ない」という気持ちを現場から捨てて意識を転換させた
聞き手:福島交通、茨城交通の現場では最初に何を行いましたか。
松本氏:多くの施策をいっぺんに行いますが、その中で、まずは赤字路線への意識改革。現場には「赤字だから事業に貢献していない」と感じることは間違いだと伝えました。
赤字路線は基本的には国、県または自治体から補助金がもらえます。儲けはなくとも収支をトントンまで戻せます。しかし補助金を受領していることを申し訳ないと感じている人がいました。
でもそれは、建設や土木が公から受注する工事と同じ仕組み。公共交通の運営を受託して委託費をもらっているのと同じだから、誇りをもって受託するようにと指導したのです。赤字路線でも維持されることで公共性、全体としての交通ネットワークが機能。結果、そのエリア全体のネットワークの維持にも貢献できます。
バス業界に古くから残っている慣習を改める4つの改革を実行して経済性を向上
聞き手:意識改革は日々の運行を前向きにするとは思いますが、具体的なオペレーションは何をしましたか。
松本氏:大まかに言うと次の4つでしょうか。
1.補助金の売り上げ計上
2.マーケティング
3.労働分配
4.収益性を高める
まず補助金は売上に計上することにしました。多くのバス会社は補助金を特別利益に計上。売上が少なく経常赤字になって、特別利益でいくらか戻ることになります。これでは、信用を得ることもできないし、取り組む社員の意欲も向上しない。だから、マーケティングの努力も怠ってきた。一人でも乗客が増えれば税金の投入が減るので、我々はマーケティングにも力を入れました。
3番目の労働分配は、従業員が誇りを持って仕事をする上で必要です。内部的に大企業が取り入れている人事評価制度にヒケを取らないものを作りました。従業員がある程度豊かに過ごすことができて、誇りを持って働けるようにしたのです。
最後に収益性を高めるために、高速バスなど新しい運行路線を開発。非常に大きな経済性を会社にもたらしてくれました。また、同時に貸し切りバス事業で学校関係、旅行エージェントなどへの営業体制強化も図りました。
産業再生機構での経験をみちのりHDで活かした松本氏