2017.11.22 ~INTERVIEW~ 経営共創基盤の10年【第4回】コンサル業界の枠を超えたプロフェッショナルファームの実像
経営共創基盤(IGPI)の代表的な実績の一つが、東日本の地方公共交通など8社を傘下に持つ「みちのりホールディングス」への出資と運営だ。経営難の地方公共交通事業を再建し、ローカル経済にも貢献している意味でも高い評価を得ている事業。
なぜ右肩下がりが続く構造不況業種の地方公共交通に出資したのか、そしてどのように事業再生の成功にまでに至ったのか。みちのりホールディングス代表取締役の松本順氏(経営共創基盤・取締役マネージングディレクター)に聞いた。
IGPIの投資委員会で反対意見も出たものの出資の意思を貫いた松本氏
聞き手(コンサル業界ニュース):みちのりホールディングスは2009年に福島交通、茨城交通を傘下に収めて以降、現在に至るまで8社(うち公共交通機関7社)を傘下に持つようになりました。2009年にその最初となった福島交通、茨城交通に出資を決定した経緯を教えてください。
みちのりホールディングス松本順氏(以下、松本氏):IGPIとして最初からバス事業に狙いを定めていたわけではありません。偶然にもたらされた機会です。
IGPIには産業再生機構出身のメンバーが多くいますが、産業再生機構では九州産業交通という地方公共交通事業の再生を手掛けてきた経験があります。その経験を活かして、福島交通の事業再生の話をいただき、任せてもらうことになったのです。
2008年に茨城交通は民事再生法を、福島交通は会社更生法を申請していましたが、そのスポンサーとしてみちのりホールディングスは設立されました。その後、2010年に岩手県北自動車、2012年に関東自動車、2013年に会津乗合自動車、2015年に湘南モノレール、2016年に東野交通の株式を譲受けてグループ傘下に収めました。また、2016年には訪日外国人向け旅行会社「みちのりトラベルジャパン」も設立しました。
最初に福島交通、茨城交通の支援を手掛ける際、頭の中には再生後のアイディアも持っていて、サスティナビリティ(企業が利益を上げ、将来においてもサービスを供給し続けられる可能性を持っていること)を回復できるという確信がありました。それをふまえてIGPIの投資委員会に諮ったのです。
IGPIでは一定規模以上の出資をする際には、投資委員会での決議を要します。ここでは主だったメンバーが参加して喧々諤々と議論。福島交通の出資に関しては「エグジットが見通せない」という否定的な意見もありました。バス事業は一般的に世の中では構造不況業種と見られていました。
しかし、産業再生機構で地方公共交通事業を再生し、エグジットするという結果も残していました。それがある意味でトラックレコードとなり、出資の承認に至ったのかもしれません。
エグジットの予定はない
聞き手:事業を売却することなく、これまでも、これからも事業を経営支援していく方針であると伺っていますが、その点についてはいかがでしょうか?
松本氏:はい。投資後、これまでにエグジットを考えたこともありませんし、今後もその予定はありません。IGPIは売却等で資金を回収しなければならない投資ファンドではありません。自己資金を事業投資に充てていますので、その必要はないのです。みちのりホールディングスの業績は非公開ですが経済性は順調。IGPIに配当も出せています。
プロフィール:松本順氏 上智大学法学部卒、日本リース国際企画業務等を経て、GM系投資会社で日本の投資業務を管掌。その後産業再生機構執行役員に就任し、九州産業交通、関東自動車、アビバジャパン等の案件を統括。IGPI設立後は、交通・観光関連事業の経営に携わりつつ、各事業の経営改革や再生型プロジェクトに関与した。みちのりホールディングス・岩手県北自動車・浄土ヶ浜パークホテルの代表取締役社長、福島交通・茨城交通・関東自動車・会津乗合自動車・湘南モノレール・東野交通の取締役会長、復興庁復興推進委員会委員。