2015.08.23 シリーズ「コンサル業界の先端」 Vision Forest ~アートを活用した組織変革プログラム~ 第2回 「自分で創る感覚」を覚醒させて変革を加速する
コンサルティングファームは時代と共にサービスを変化させ、その方法論を進化させ続けている。シリーズ「コンサル業界の先端」では、コンサルティング業界で新たな価値創造に取り組むコンサルタントとそのサービスを紹介。連載第一回はシグマクシスのVision Forestを取り上げる
Vision Forestは具体的にどのようなプログラムなのか?第2回はその内容について話を伺った。
※第1回「ロジックの限界を超える」はこちら
アート(感性)x ロジック(論理)の方法論、Vision Forest
Vision Forestの基本プログラムは、(1)人財・組織の状況サーベイ、(2)集中ワークショップ、(3)実践・振り返りワークショップ、(4)継続的な仕組み化、という4つのステップで進められる。
すでに過去50社におよぶ企業に導入されており、進め方はクライアントの状況や規模、プロジェクトの目的ごとに細かくカスタマイズされるのだが、ステップ(2)の集中ワークショップの一部、「創作セッション」にアートが活用されるのは共通だ。
「創作セッション」で絵を描くことの意味
創作セッションは、実際に参加者全員が一人ひとり絵を描く。絵を通じてまずは自分を知り、互いを知る。はじめは手が動かない人もいるが、徐々に描くことへの欲求が出てくる
創作セッションは、約4時間、実際に参加者全員が一人ひとり絵を描き、描いた絵をお互いに鑑賞しあう。絵を通じてまずは自分を知り、互いを知る。個々の心を開き、意識を変えることで、引き続き行われる戦略セッションで、新しい視点で組織の課題を見つめて討議できるような環境を作り上げる。最終的には、変革の推進力を高めていくことが目的だ。
ここでアートを使うことの意味「描くことの意味」は何だろう。創作セッションを担当するホワイトシップの長谷部氏は次のように語る。
「絵を描くということは、100%主体的な行為です。こちらから“描きましょう”というきっかけは作りますし、時間もプロセスもある程度は決まっていますが、絵は自分の責任で描きあげなければ完成しません。突然“絵を描け”と言われてたじろぎ、はじめは手が動かない人もいますが、いつの間にか、徐々に描くことへの欲求がでてくる。驚くことに、描けなかった人は今まで一人もいません。描くというのは、本能的な行為なんです」。すなわち、描くことで、日頃無意識のうちに封じ込めている主体性・能動性の感覚を得ることがよみがえり、それが変革への推進力を高めるエンジンになるというのだ。
忘れていた「主体性」を取り戻す
長年組織の中で生きていると、「主体的になる」というのは結構難しい。自ら始めたことが失敗したら、バツがついたり左遷されたり、昇進の道が閉ざされたりする可能性もある。主体的であるべきだと思いながらも、無意識にそこから逃げてしまっている人も多い。また、誰かに「主体的になれ」と言われた瞬間に、そもそもそれ自体「主体的ではない」という、という難しさもある。だが、「主体的な感覚」を味わったことがある人には、はっきり分かることがある。主体的であることは圧倒的に楽しく面白い、ということだ。
長谷部氏は「日常的に主体性を忘れがちな環境にいる参加者のみなさんが、この瞬間に覚醒して、自分をオープンに表現することができる状態になれるとしたら、それはすごいこと」と語る。
各自で描いた絵を互いに鑑賞し、感じたことを述べあう。自分をオープンに表現することができる状態になり、変革の推進力を高めていく
「自分が創る感覚」Vision Forest流のファシリテーション
こうして創作セッションで右脳と感性を開いた参加者は、午後の討議セッションに入る。今度は、事前のリサーチに基づいて事業に関する議論を行う「左脳」のセッションだが、創作体験を経た参加者は、オープンで「今なら自然体で意見が交換できる状態」になっている。
セッション内の議論にあふれ出るのは、事業に対する自分の「想い」だ。「本当はここまで目指したい」、「事業のストーリーはこうしたい」という前向きな発言や、「このハードルは全員で超えないとゴールできない」など建設的な議論が交わされる。斎藤氏の「Vision Forest流ファシリテーション」に導かれ、参加者自身が主体的に自ら事業を作り、自分で課題を解決していこうという空気が作り出されていく。
「創作セッションの4時間で一人ひとりのモードが変わったらすぐ、自分たちの事業について議論を行う。変革に取り組む高い意識、創造性、主体性が生まれた状態を保ちながら討議に入るというのがポイントです。最初から”事業について討議しましょう”と言っても、こうはなりません。」と斎藤氏はアートが人のマインドを変える力を語る。
具体的な打ち手の設計、仕組み化、定着まで伴走
Vision Forestのプログラムは、創作セッションと討議セッションで構成される「一日集中ワークショップ」の後も、実践、振り返りワークショップ、そして継続的な仕組みづくり、定着化、と続く。ここからはお客様の規模や課題に応じて進め方がカスタマイズされるのが普通で、年間通してクライアントの事業運営に並走するケースも多い。
一般的な戦略コンサルティングと大きく違うのは、全てが「クライアントの主体性、創造性、能動性をいかに引き出すか」という視点で、すべてのプロセスがデザインされているということ。「この後は全部我々が纏めます、と引き取ってしまうのではなくて、全部お客様にやってもらう。我々は、その組織自体が自ら変化していくプロセスを作り上げていくことに全エネルギーを注ぎ込みます」と斎藤氏は語る。
組織の潜在的な能力を覚醒、爆発させる
創作セッションで描かれた絵。
Vision Forestは、幅広いテーマで様々な企業に採用されている。「次世代イノベーションリーダーの創造」、「グループ会社のシナジー創出」、「グローバル企業の全世界ビジョン共有」など。大手グループ企業の経営陣がワークショップを機に海外事業での連携を決めたというケースもある。また、3年間にわたってVision Forestを活用して人財・組織開発を進めてきたある企業は、その期間に500億円を超える売上成長を実現している。斎藤氏は「ほとんどの企業は、組織の持っている潜在的な力を出し切ってない。一人ひとりの能力とモチベーションをいかに上げるかにかかっています」と語る。
大型システム開発プロジェクトにも効果絶大
なお、戦略系だけではなくIT系プロジェクトでもVision Forestは成果を上げている。興味深い事例としては、大手企業のシステム開発プロジェクト。他社が手掛けていた大規模システム開発が暗礁に乗り上げ、シグマクシスに”助けてほしい”と緊急要請が入った。「プロジェクトのゼロからの立て直しで、PMO(プログラムマネジメントオフィス)で入ってみると、関わっているのはお客様側とベンダー側を含めて4社。文字通り火を噴いている中で、それぞれ互いに不信感があり、モチベーションも下がっている、そんな危機的な状況でした」と斎藤氏。そこで、立て直しの冒頭に投入したのがVision Forestプログラムだった。「ワークショップを終えると、”このメンバーで、やり遂げたいと初めて思えた””このチームならできると思った”と言うコメントが現場のリーダーから湧き出てきました。みんな想いは持っているけれども、組織があり、縦割りで、役割が細分化されていて相手のことがわからなかったんですね。結果的に2年後にプロジェクトは大きな成果を生み出しました。みなさんの頑張りの結果ではありますが、その起爆剤の一つにはなったかなと思っています。」
連載第3回はVision Forest立ち上げのストーリーについて聞く。
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