2022.06.23 BPRとは?BPRプロジェクトの検討手順やポイントをプロが解説
日本では「業務改革」と呼称されることもあるBPR。競合企業との競争に打ち勝つためにBPRに取り組む企業が増える一方、BPRの具体的なイメージがつかめない、または業務改革を推進したいが、何から検討すればよいかわからないという方もいるかと思います。そこで本記事では、筆者がコンサルタントとして多くのBPRプロジェクトに携わってきた経験から、BPRの概念を整理し、定石となる検討手順を解説していきます。「BPRとは何か」、「どのようにプロジェクトを進めていけばよいか」について興味をお持ちの方は、ぜひご覧ください。
■筆者プロフィール
中田元樹(なかた げんき)
株式会社DIK&Company 代表取締役
ExcelCamp運営メディア 責任者
情報経営イノベーション専門職大学 客員准教授
日本薬科大学 招聘講師
東進ハイスクール校舎長、社長室担当を歴任、その後日本IBMを経て、NTTデータ経営研究所にてBPRコンサルティングを行う。 BPR領域では、業務データ分析に基づいた意思決定支援プロジェクトを得意とする。 現在は、デジタルを活用した新規サービス創出の領域にて、多数の企業にてDX推進を支援している。実践のデータ分析プロジェクトで培ったExcelノウハウを体系化し、企業/個人向けのExcel研修を提供している。 自身のノウハウをまとめた著書「神速Excel(ダイヤモンド社)」を2019年に出版。
目次
BPRとは?
- BPRの定義
- 業務改革と業務改善
- 具体例
BPRプロジェクトの検討STEP
- ①戦略策定
- ②可視化
- ③施策抽出
- ④施策実行
まとめ
BPRとは
BPRの定義
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは、企業価値を最大化するために、現在の業務内容やフロー、組織の構造などを根本的に見直し、再設計することです。
リエンジニアリング(再設計)という言葉の通り、企業のミッション達成やビジネスインパクト最大化のために、抜本的な業務プロセスの再構築を行うこと、と理解すればよいでしょう。
米国会計検査院(GAO)の「Business Process Re-engineering Assessment Guide, United States General Accounting Office, May 1997.」では、以下のように定義されています。
BPRとは、組織のミッション実現を助け、かつ、コストを削減するために事業プロセスを再設計するアプローチの1つである。
“再設計”は、組織のミッション、戦略、目標、顧客のニーズなどのハイレベルな評価と再検討から始まる。
例えば、「我々の使命は再定義される必要があるのか?」、「戦略や目標はミッションと整合しているか?」、「我々の顧客は誰なのか?」、「顧客の欲求やニーズを満たすための、最適な運営になっているか?」という論点から出発する。(筆者訳)
※出典:https://www.gao.gov/assets/aimd-10.1.15.pdf
業務改革と業務改善
日本において、BPRは「業務改革」と呼称されることもあります。「業務改革」は、「業務改善」とは明確に定義が異なります。
業務改革とは、以下のニュアンスを持つ用語になります。
・特定の部署内に留まらず、組織横断的に
・ボトムアップでなく、経営層のトップダウンで上流から
・非効率の削減だけでなく、顧客への提供価値の最大化を目指すために
・部分的な改善でなく、大胆かつ抜本的に業務を再設計する
BPRの具体的な方法論をお伝えする前に、そもそも「改革」と「改善」とは何が違うのか、をご説明します。
企業の目的を「顧客への提供価値を高め、利益を最大化すること」であると定義したうえで、以下の3つの言葉の違いについて、筆者の理解をもとに整理していきます。
・改善
・改革
・変革
改善
「改善」とは、プロセス自体は変えず、プロセス運用の方法を良くしていくことを指します。
つまり、「改善」では現状のプロセスは変えません。現状のプロセス自体は肯定したうえで、運営の方法をよくすること。いわば、「やり方は変えずに、無駄をなくし品質を良くする」という意味合いを持ちます。
改革
「改革」とは、現状のプロセスを否定したうえで、プロセスそのものを変えること。いわば「やり方そのものを変える」という意味合いを持ちます。
変革
「変革」とは、そもそも企業の提供価値を見直し、事業モデルそのものを変えること。いわば「やることを変える」という意味合いを持ちます。
具体例
例えば、学習塾を営むことを例に挙げるとわかりやすいと思います。
学習塾は集客した生徒の学力を伸ばし、その対価として授業料を顧客からいただく事業モデルになりますが、「改善」は「昨年よりもわかりやすく、満足度の高い授業を行う」などの活動になります。改善ではルールやプロセス自体は同じで、“過去の自分”と戦い、よりよいやり方を指向していきます。
一方で「改革(やり方そのものを変える)」は、「これまで教室集合形式で行っていた授業を映像授業化する」といった抜本的な変更を指します。「生徒の学力を伸ばし、その対価として授業料をいただく」という事業モデル自体は変わっていませんが、サービスの提供方法を抜本的に見直しています。
この過程で当然ながら業務フローやルール自体も変わり、プロセスの再定義を行うことになります。
最後に「変革(やることを変える)」ですが、校舎として使用していた物件をコワーキングスペースとしてリデザインし、新たなマネタイズモデルを構築することを指します。この場合、そもそも顧客の対象を受験生からコワーキングスペースを利用する方々に広げており、学習塾モデルからの脱却を目指す形になります。
学習塾モデル(教育事業)から「やることを変え」、シェアスペース事業に転換をしています。
BPRとは「改革(やり方そのものを変える)」、または「変革(やることを変える)」を目指すものであり、BPRプロジェクトでは現場レベルの業務改善だけにとどまらない抜本的なプロセスの再設計を行います。
BPRプロジェクトの検討STEP
ここからは、実際にBPRプロジェクトを進めるにあたっての検討STEPについてお話します。
BPRは改革テーマも様々であり、アプローチはプロジェクトごとに異なりますが、定石となる検討手順が存在します。自社の改革テーマと照らし合わせながらお読みいただければと思います。
BPRプロジェクトの検討STEP
1 戦略策定
2 可視化
3 施策抽出
4 施策実行
①戦略策定
BPRプロジェクト検討の最初のSTEPは戦略策定です。
BPRプロジェクト発足時には、課題感や解決をしたいテーマがすでにあり、そのために業務の見直しを行いたいという“ある程度のあたり”がついていることが一般的です。ただし、目の前に見えている課題解決だけにフォーカスすると近視眼的な取り組みになりがちです。一度改めて業務戦略を俯瞰的に見つめなおすという手順を踏むことを強くお勧めします。
まずは業務戦略の策定にあたって、企業価値を構成する顧客、コスト、組織の観点で要素分解します。
例えば、次のような問いを立てたうえで議論を行います。
顧客
・当社が顧客に提供する根源的な価値は何か?
それは現状どの程度提供できており、何ができていないか?
・販売額の単価やLTVの向上は可能か?どうすれば向上できるか?
コスト
・同業他社と比べて、現状のコスト構造は適切か?
・(感覚的な肌感でもいいので)現状、非効率と思われる業務や膨らみすぎているコストは何か?
組織
・当社の核となる機能は何で、それは内製化できているか?
・それぞれの事業部のミッションは何か?
・事業部のミッションは達成されているか、評価できているか?
そのうえで、プロジェクトの大きな方向性を決め、「プロジェクトのゴール=何が達成できたらプロジェクトが成功と言えるか」を定義します。
また、BPRプロジェクトは組織全体の抜本的な見直しを行うものであり、経営層のプロジェクトへのコミットメントがないと多くの場合、失敗に終わります。
②可視化
次に「可視化」を行います。 多くの問題は、正しく可視化をすれば解決の糸口を見つけることができます。
さらに、どの領域に比重を置き、どの領域は注力する必要はないか、プロジェクトの成果を最大化するためのキードライバーの特定を行うことができるようになります。
現状を正しく把握しないと、筋の悪いアプローチを立案してしまう可能性があり、しかもその筋の悪さに気がつくこともできません。
可視化のポイント
「業務可視化」というと、現在の業務フロー、業務ルール、業務量を調査し、プロジェクトに関わる誰もが現状の課題を把握できるように整理していく方法を想像されるかもしれません。
当然、前提として上記の手順を踏むことが重要ではあるのですが、以下の観点を注視して整理をしていくことをおススメします。
✔ 同じ機能を持つ業務やデータがバラバラと散在していないか?
✔ 業務フローや業務ルールは統一されているか?部署別/人別に異なる場合、差分は何か?
(1)集約化余地の抽出:同じ機能を持つ業務やデータがバラバラと散在していないか?
同じ機能を持つ業務が複数部署に散在している、外注先が多数あり管理が困難になっている、システムインフラの構成がそれぞれ異なる、など、「バラバラと散在している」対象を明らかにしていきます。 これは、集約が可能な余地を探して施策を検討する際の前段階の整理になります。
そもそも業務が分散した状態では、管理が困難になり、改革でテコ入れしなくてはいけない領域が増えて改革の難易度を高めるためです。
この検討は一般的に「集約化余地の抽出」という言い方をします。
(2)標準化余地の抽出:業務フローや業務ルールは統一されているか?部署別/人別に異なる場合、差分は何か?
業務に標準的なルールがない場合、標準となる業務ルールを定義します。例えば、取引先別の異なるレポートフォーマットを使っており、運営が属人化している場合などは、一定の標準フォーマットに統一ができないかを検討します。また、グループ会社や部署ごとにルールや業務が異なり、同じ基準で管理ができないこともよく見られる現象です。
イレギュラーが多く属人性が高いと、業務は複雑化し、業務プロセス再設計の障害になります。一言で“ルールの統一”といっても難易度が高いことが多く、一朝一夕では実現できませんが、少なくとも「可視化」のSTEPでどこにどのようなルールが存在し、何が異なっているかを整理するプロセスは必要です。
この整理は「業務標準化余地の抽出」という言い方をします。イレギュラーを減らし、業務ルールを統一化することで改革の実行難易度を下げることができます。
③施策抽出
BPRプロジェクト検討の3STEP目は施策抽出です。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が浸透して久しいですが、BRPプロジェクトのような改革は「とにかくデジタル化だ、自動化だ」とデジタル化すること自体が目的となってしまう事例が見受けられます。
特にデジタル化については、可視化フェーズでお話した「集約化」、「標準化」ができないと非常に難易度の高いものになります。
集約化、標準化の検討を飛ばしてデジタル化を進めてしまうと、そもそも複雑性の高い業務を自動化することになり、システム要件も複雑化し、システム構築後もイレギュラーが多すぎて使い物にならず結局手運用ばかり残る、といった現象が起こります。
デジタル化の前に、業務が複雑化している(ルールがばらばら、イレギュラーが多い)、分散している(同じ機能を持つ業務を複数部署が行っている、様々な外注先が行っている)箇所を見つけ解決ができないかを検討しましょう。「急がば回れ」の発想が重要です。
④施策実行
可視化→設計フェーズを経て、長期ロードマップを立案したあとは、「まず何から着手をするか」、短期スケジュールを作り実行していきます。BPRは業務の抜本的な再設計であり、長い期間と労力が必要です。また、複数の部署を巻き込みながら協力を得る必要があることがほとんどです。
最初から難易度の高い壮大なテーマに着手してしまうと、成果が出るまでに時間がかかり、ステークホルダーの積極的な協力も得られず、プロジェクトチームが疲弊し、頓挫してしまうこともあります。
施策実行のポイント
まず最初は、QuickWinと呼ばれる「単一部署/少数の関係者のみでコストをかけずにすぐに実行できて、着実に成果がでるテーマ」から着手するのがよいでしょう。改革成功の小さなのろしを上げることで、組織全体が改革に前向きになり、BPRプロジェクトの初速がつくことが多いように思います。
まとめ
今回は、BPRの定義やBPRプロジェクトの検討STEPについて解説しました。
BPRとは、企業価値を最大化するために、現在の業務内容やフロー、組織の構造などを根本的に見直し、再設計することであり、実施の際は、戦略策定、可視化、施策抽出、施策実行のSTEPを踏むのが一般的です。各STEPにおいては、以下のようなポイントに気を配るとプロジェクトの成功確立が上がるでしょう。
・戦略:目の前に見えている課題解決だけにフォーカスすると近視眼的な取り組みになりがちなので、一度改めて業務戦略を俯瞰的に見つめなおす
・可視化:集約化余地の抽出、標準化余地の抽出で改革の実行難易度を下げる
・施策抽出:「急がば回れ」の発想で、デジタル化の前に業務集約、ルール統一を行う
・施策実行:QuickWinで改革成功の小さなのろしを上げる
本記事が、これからBPRに取り組もうと思っている方の参考になれば幸いです。