2022.04.15 1on1ミーティングが注目を浴びるようになった理由|実際の仕組みや失敗事例、成功事例に関して解説
1on1ミーティング(以下「1on1」)は、上司とメンバーが1対1で話し合うコミュニケーションの手法で、積極的に導入する企業が増えています。しかし、なかには1on1の効果を実感できない担当者もいるかと思います。そこで、今回は1on1が注目される理由に加え、効果を上げている企業の事例や、失敗する企業の特徴などをご紹介します。
1on1ミーティングの発祥
1on1を最初にマネジメント戦略として採用したのは、世界的半導体メーカーのインテル社とされています。以来、1on1は米国シリコンバレーを拠点とするグーグルなどのハイテク企業が活用し、広く知られるようになりました。日本では2012年にヤフーが導入し、現在では楽天・ソニー・リコー・カルビー・日清食品などの大手企業をはじめとする多数の企業が1on1を導入し、成果をあげています。
1on1では、人材育成を目的として上司とメンバーが1対1で行う定期的な対話を行います。月1回〜週1回などの定期的なペースで行うことが多く、30分程度の時間を設定している企業が多いようです。
1on1と一般的な面談との違いは上司がメンバーに指示を与える時間ではなく、「メンバーのための時間」であることです。上司は、メンバーから課題を引き出し、それに対して適切なフィードバックを行うことでメンバーの成長をサポートします。
1on1ミーティングが、なぜ注目を浴びたか
HRネットワーク「日本の人事部」が発表した「人事白書調査レポート2020」によれば、1on1を導入している企業の割合は4割以上とのこと。従業員数にかかわらず、多くの企業が導入していることが明らかになりました。1on1は、なぜここまで注目されているのでしょうか。
1on1ミーティングが重視される時代背景
1on1が広まった背景には、労働人口の減少や労働環境の変化があります。若い世代の労働人口減少や人材の流動化が加速する中、人材流出や早期離職を防いでメンバーのモチベーションを高めるには、質の高いコミュニケーションが必要です。仕事帰りの飲み会などがメンバーに敬遠される中で、メンバーのキャリアプランや仕事に対する悩み、考え方などをすくい上げる新たな仕組みが必要とされてきたのです。
現代社会は、変化のスピードが速く、予測不能であるVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代だといわれています。VUCA時代で生き残るには、柔軟で変化に強い人材が必要です。そうした時代の要請も、これまでと異なる新しいマネジメント方法が必要になった理由です。
1on1ミーティングが企業にもたらす効果
1on1を導入した企業が成果をあげていることも、1on1が広まっている理由です。1on1の導入でどのような効果が期待できるのか、代表的な2つのメリットをご紹介します。
1.エンゲージメント向上
1on1はメンバーのエンゲージメント(組織に対する愛着心)の向上が期待できます。同時に上司とメンバーの信頼関係の強化も期待できるでしょう。1on1では、上司がメンバーの現状の問題を把握して問題解決のヒントを与えます。メンバーは、自ら問題を解決することで達成感を得ることができます。
2.生産性の向上
1on1を定期的に行うことは、離職防止にとどまらず、人材育成としての効果も期待できます。上司との信頼関係が高まれば、より的確なアドバイスを受けられるようになり、生産性の向上にもつながります。
1on1ミーティングの事例
1on1が効果を発揮する企業もあれば、導入しても成果に結びつかない企業もあります。それらの違いはどこにあるのでしょうか。ここでは、成功した企業の事例と失敗した企業の事例をそれぞれご紹介します。
成功事例
■楽天株式会社
楽天株式会社では2017年から1on1を全社で導入し、現在もマネージャーとメンバーの間で定期的に実施しています。
楽天株式会社のケースで参考になるのは、マネージャーサイドの支援を行っていることです。メンバーへ適正なフィードバックを行うためには、マネージャーにも相応のスキルを身につけさせる必要があると考え、管理職向けの研修に力を入れています。
■クックパッド株式会社
レシピサイト「クックパッド」を運営するクックパッド株式会社も1on1を活用している会社の一つです。週に1度、1回15分をコミュニケーション促進の時間としています。
特徴は、上司とメンバーで話す内容が仕事に限らないことでしょう。プライベートなことや気になることなど、どんなことでもフランクに話せる場をつくることで、スタッフ同士の問題やメンバーが抱えているトラブルなどに早い段階で気付けるようになったそうです。
■株式会社リコー
株式会社リコーでは、コロナ前から実施していた1on1をテレワークでも実施しており、各部門、週1回のミーティングを行っている他、オンライン朝礼やオンラインランチなども実施しています。1on1はコミュニケーションが希薄になりがちなリモートワークでも効果を発揮し、社員の心理的安全性やモチベーション向上につながっているようです。
失敗事例
1on1を導入したものの、効果を実感できていない企業も少なくありません。その原因はどこにあるのでしょうか。次に効果が上がらないケースに共通する問題をあげてみます。
1.導入自体が目的化している
1on1を導入すること自体が目的になってしまっていると、なかなか効果をあげることは難しいでしょう。導入の目的は企業によりまちまちですが、例えば信頼関係の強化やエンゲージメント向上、モチベーション向上などを通じた離職防止や生産性向上です。目的がないまま導入しても、効果はあがりません。
2.上司のスキルが不足している
1on1の効果を高めるためには、上司に傾聴スキルやコーチングスキルが必要です。そうしたスキル向上に関するサポートが不十分な場合、従来の個別面談で行ってきたような「指導」や「ティーチング」になってしまいます。上司側が「主役がメンバーである」という認識をもっていないと、メンバーの心理的安全性も確保されにくく、有意義なミーティングになりづらい傾向があります。
3.メンバーに目的が伝えられていない
1on1における目的を正しく設定していても、それをメンバーが理解しやすいように伝えていなければ、適切な運用はできません。事前に1on1でどのような運用を行うのか、具体的にどういったことを共有して欲しいのかをメンバーに伝えることが必要です。そうでない場合、せっかくの会話の機会が中身のない時間になってしまいます。
1on1ミーティングを失敗させないために押さえておきたいこと
1on1を効果的に行うには、事前準備が重要になります。上司とメンバーの双方に、目的を理解してもらった上で、実施前には次のような準備をしておくとよいでしょう。
アジェンダを設定しておく
上司・メンバー共に何を話したらいいかわからず、失敗に終わるケースも少なくありません。そうした失敗を避けるために、アジェンダを設定すると良いでしょう。
以下はアジェンダの一例になります。こういったものを事前に提示し、各自準備しておくと、限られた時間の有効活用につながります。
・業務で困っていること
・スキルアップに関する課題、悩み
・今後のキャリアの展望や不安
・体調やメンタル面の状態
・プライベートで抱えている悩み
上司のスキル向上のための研修を実施する
1on1の成功には、上司の傾聴スキルやコーチングスキルがカギとなります。従って、それらを向上させるための研修やサポートの実施も検討したいものです。例えば、ティーチングではなく、問いかけによって気づきを引き出す「コーチング研修」や、より積極的な傾聴スキルを学べる「アクティブリスニング研修」などが考えられます。
まとめ
今回は、1on1が注目される理由に加え、成功事例や失敗事例についてご紹介しました。1on1は離職防止や生産性向上が期待できますが、適切な目的設定とそれをふまえた運用方針が必要です。また、上司には相応の傾聴スキルやコーチングスキルがカギとなるので、必要に応じてスキルアップのための研修などを行うと良いでしょう。