2022.03.25 ジョブ型雇用とは?特徴からメリットとデメリットまで徹底解説
ジョブ型雇用とは、職務を明確にした上で最適な人材を採用・配置する欧米で一般的な雇用形態です。日本型の雇用システムが限界を迎える中、ジョブ型雇用は国際基準に沿った雇用形態として注目を集めています。ジョブ型雇用は、企業や働く人にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。基本的な知識を解説していきます。
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、日本型雇用システムのあり方を議論するために、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏が提唱した理論モデルです。日本型雇用システムを「メンバーシップ型」と定義する一方、欧米で一般的な雇用システムを総称して「ジョブ型」と名付けたのが言葉の由来です。まずはジョブ型雇用の概要やメンバーシップ型雇用との違い、なぜ今、注目が集まっているのかを紹介します。
ジョブ型雇用システムとは
ジョブ型雇用では、企業に必要な職務(ジョブ)を明確にした上で、職務の遂行に必要なスキルや知識のある人材を社内外から採用・配属します。日本企業では従来「人に職務を割り当てる」スタイルを踏襲してきましたが、ジョブ型雇用は「職務に人を割り当てる」スタイルです。
ジョブ型雇用では、働く人の仕事を「ジョブディスクリプション」と呼ばれる職務記述書で明確に規定して、その分野にのみ従事する専門性の高い人材を配します。職務記述書には、勤務地や賃金なども明記されるため、異動や転勤はなく、昇進や降格も基本的にはありません。報酬は担当職務の専門性やスキルによって決められます。
メンバーシップ型雇用とどう違う
一方のメンバーシップ型雇用は職務を限定せず、新卒で正社員を総合職として一括採用する日本独自のシステムです。新入社員に研修や配属部署での実務、異なる部署への異動などによって、幅広いスキルや視点を身につけさせるジェネラリスト養成型のシステムです。
メンバーシップ型雇用では、社員に異動や転勤があり、賃金は年齢や社歴、職位が上がると同時に上がっていく年功序列型。解雇もされにくく、ジョブ型雇用とは対照的なシステムです。
ジョブ型雇用が注目される理由とは
ジョブ型雇用が注目されるようになったのは、2019年、当時経団連会長だった中西宏明氏が「日本型雇用の見直し」に言及したことがきっかけとされています。ただし、それ以前から、日本の国際競争力の低下を受けて雇用システムを見直そうとする機運は高まっていました。
日本の労働生産性が低い原因を日本特有の雇用システムに求める意見もありました。AIやIoT、5Gなど、さまざまな技術革新が起きる中、ジェネラリスト育成型のメンバーシップ型雇用では、高い専門性を持ったスペシャリストが育たないことも問題視されていたのです。
そうした中、新型コロナウイルスの感染拡大で世界的にリモートワークが導入され、在宅勤務では職務内容の明確なジョブ型雇用の方がより効率的なことも明らかになりました。ワーク・ライフ・バランスを重視する「働き方改革」とジョブ型雇用の相性がよいことも注目される理由です。
日立製作所や資生堂、富士通などの大手企業が、すでにジョブ型雇用を導入しています。日本でも大企業を中心に、今後もジョブ型雇用への転換が進んでいくと予想されています。
ジョブ型雇用のメリット
ジョブ型雇用には企業にも働く人にもメリットがあります。企業側には「専門性の高い人材の採用」、「組織の生産性向上」といったメリットがあり、働く人にも「得意な業務に専念できる」、「ワーク・ライフ・バランスの実現」などのメリットがあります。それぞれのメリットを解説しましょう。
企業にとってのメリット
企業にとっては、専門分野に強いスペシャリストを採用できることがメリットです。職務内容を決めて求人を行うため、求める人材が明確で効率のよい採用が行えます。役割が明確なため、職務ごとに最適な人材を適材適所への配置が可能。結果、組織全体の生産性が向上します。リモートワークと相性がよいため、従業員の通勤負担の軽減なども期待できます。
働く人材にとってのメリット
スキルのある専門職に従事すれば、得意な仕事に集中できると同時に同じ分野の仕事を続けることで専門性も磨かれていくでしょう。スキルが向上すれば、報酬が上がることも期待できます。
ジョブ型雇用のデメリット
ジョブ型雇用にもデメリットはあります。企業側には「人材の流出」や「柔軟な人事運用ができない」などのデメリットがあり、働く人にも「自分自身でのスキルアップが求められる」などのデメリットがあります。それぞれを説明しましょう。
企業にとってのデメリット
企業にとってのデメリットには人材が流出しやすくなる点が挙げられます。専門的なスキルを持った人材は、より好条件の会社への転職する機会が増えるためです。
働く人材にとってのデメリット
働く人にとってのデメリットはスキルアップに関するものです。メンバーシップ型雇用と異なり、企業が研修やOJTなどの教育を行わないケースもあり、働く人が自らスキルアップしなければなりません。スキルが伸びなければ、周囲より待遇が悪くなる可能性もあります。
ジョブ型雇用を導入する際の課題
ジョブ型雇用は、定着している日本の雇用制度と相いれない部分が多く、導入するには課題も少なくありません。特にグループ会社が多数ある大企業以外の中小企業で、ジョブ型雇用を採用する場合にはさまざまな障壁があります。ここではジョブ型雇用を導入する際の課題を解説します。
職務の明確な規定が難しい
ジョブ型雇用を導入するには、職務記述書で業務内容を明確に規定しなければなりません。しかし、各現場の業務状況を人事サイドが細かく把握できていないケースもあります。人手不足で同じ人材が複数の業務を兼任していることもあるでしょう。そのようなケースでは、職務記述書で職務内容を明確に規定できないため、導入が困難になるケースもあります。
導入のための制度が未整備
ジョブ型雇用では、透明性・客観性の高い評価基準を設けることが求められます。しかし、評価制度が明確に定まっていないケースや、「がんばった」ことで評価される属人的な評価が行われているケースも少なくありません。導入には、評価制度・報酬制度を抜本的に変える必要があるため、評価が変わったことを不満に思い、離職者が増加するケースもあります。
解雇・降格への対応が難しい
ジョブ型雇用では、規定された職務内容を遂行できない場合、解雇が必要なこともあるでしょう。しかし、日本では解雇の条件が厳しく、簡単に人を辞めさせられません。降格させるにしても新しいポジションの決め方など「再配置」の仕組みが不可欠です。降格・再配置の対応が未整備な状態ではジョブ型雇用は維持できなくなります。
まとめ
注目を集めるジョブ型雇用にはメリットもあればデメリットもあり、自社の状況改善につながるかどうかを考えて導入を検討する必要があります。場合によっては、一部のポジションからジョブ型雇用を試してみて、そのノウハウをもって他ポジションへ拡充するかどうかを考えてみるのもよいでしょう。また、雇用システムを変更する際は、企業トップの強いメッセージが必要です。なぜジョブ型雇用が必要なのか、社員にどのようなメリットがあるのかを明確に伝えることが重要でしょう。