2017.08.18 アクセンチュア・フロンティアマネジメントで10年のコンサル経験後 本の要約サービス「フライヤー」を立ち上げた大賀康史氏が語る起業からこれまで
アクセンチュアおよびフロンティア・マネジメントでの10年のコンサルタント経験を経て2013年に起業した大賀氏が代表取締役を務める株式会社フライヤー。同社が運営するflier(フライヤー)は「ビジネス書の要約サービス」を運営。
flierはスキマ時間を活用して、厳選した話題のビジネス書・教養書がわずか10分で読める「時短読書」を提供。ビジネスパーソンに端的に情報をキャッチアップできる機会を提供することや、出版社に対して本の知名度を上げる手段を提供することを実現している。フライヤーの大賀氏はなぜこの事業を始めたのだろう。まずはその点を大賀氏に聞いてみることからインタビューはスタートした。
大賀氏の3つの行動の源泉「好奇心の充足」・「チームの一体感」・「社会的意義」
聞き手(コンサル業界ニュース):なぜ、フライヤーを起業し「本の要約サイトflier」をスタートするに至ったのですか?
フライヤー大賀康史氏(以下「大賀氏」):ビジネスアイデアはたくさんあっても、何を選んで起業するかは経営者のキャラクターによると思います。
私の場合「知的好奇心が満たされること」「チームの一体感が感じられること」「社会的な意義のあること」の3つが満たされると何をやっていてもハッピーで、迷いなくやれることを自己認識していました。
流行ものを追いかけるより、人間の普遍的な欲求を満たすサービス
聞き手:社会的な意義があることも重要視されているようですが、フライヤーにはどのような社会的意義があるのでしょうか?
大賀氏:本は作るのに1年、ものによって10年はかかります。それだけ時間をかけて編集された「考え抜かれた情報」を多くの人に届けることには大きな意義があると考えています。経済学者のシュンペーターが言われたように、イノベーションは既存の知識の組み合わせで起こりますので、その源泉に成り得る知識のストックを提供するのです。これは日本、ひいては世界にとっても意義のあることだと思います。
また、会社は長く続く必要がありますが、そのためには人間が本来持っている欲求を一つでも多く満たすことができるサービスを作ることが必要だと考えています。そうすれば、すぐに飽きられるものではありません。flierのサービスは元来人間が持つ「知識を得たい」という欲求や「創造性を発揮したい」という欲求を満たすことができると考えています。人間が本来持っている欲求を満たすサービスは、社会的意義を満たすものだと思います。
フロンティア・マネジメントで企業や人の人生、地域をも左右するようなプロジェクトを経験
聞き手:コンサルタントとしてはどのような活動をしていたのですか?
大賀氏:コンサルタント時代も先に挙げた三つの軸は満たされていたし、コンサルティング会社でも大きな仕事で社会的な意義を感じることはできると思います。
アクセンチュアでは最初の3年はプログラミング、あとの4年は戦略コンサルタントとしてマネジメントを学ぶことができました。順調な大手企業において、事業を更に伸ばしていく案件が多かったです。
ただ、同じ労力を使うなら、切実にコンサルタントを必要としている人を助けたいと思うようになりました。せっかく一度の人生を生きるなら死ぬ時に自分の人生に意味があったと思える過ごし方をしたいと考えました。そこで、中規模企業の企業再生を手掛けるフロンティア・マネジメントに転職しました。
フロンティア・マネジメントでは、様々な案件があるのですが、中には下手をすると資金がショートするような危機に瀕している会社がクライアントになることもありました。再生できる戦略を短期間に立てる必要があって、その会社で働いている人の家族、地域経済、経営者自身の今後がかかっていますので、本当の意味でプロフェッショナリズムが求められるやりがいのあるプロジェクトが多かったです。
案件の成否によっては色々な人の生活が変わっていくものもありました。企業再生案件はその会社にとって1回あるかどうか。社長がプロジェクトリーダーを務め、エース級の社員がアサインされます。全社の戦略、金融機関との交渉などトップマネジメント層の仕事ができて、社会的な使命感を感じられ、自分はこの仕事をずっとやり続けると思っていました。
プロフィール:大賀康史氏 早稲田大学大学院理工学研究科卒、アクセンチュアで7年、フロンティア・マネジメントで3年それぞれコンサルタントとして過ごした。2013年6月にフライヤーを創業し現在に至る。2016年11月にメディアドゥの完全子会社となり、グローバル展開も目指している。
フワフワとした気持ちでやる仕事ではない
聞き手:社会的意義のあるコンサルタントとしてフロンティア・マネジメントで充実した仕事を行っていたと思うのですが、なぜ起業をしたのですか?
大賀氏:両親もサラリーマンであり、もともとアントレプレナーになろうと思ったことはその瞬間まで一回もありませんでした。フロンティア・マネジメント時代に家電量販店へ出向し、経営企画部のマネージャーとして、日常的に社長と接する経験がありました。実際近くで接してみると、人情があり、クレバーで、厳しい。そして、逆風の中、閉店や、M&Aなどの大変なこともこなし、尊敬できる方でした。それはこれまで思い描いていた社長像と違っていました。この経験から、社長業が素晴らしい仕事だと感じ始めました。
そんな自らの変化もある中、フロンティア・マネジメントで本が好きな同僚が集まって色々とビジネスアイデアを話すことがあったのですが、「一冊10分くらいで内容が把握できて、知的好奇心が満たされるサービスがあったらこんなに素晴らしいことはない」という話が持ち上がりました。
しっかりとした感性を持った方が本の内容をまとめて、それがいい本だと思えばみんなが買う。ビジネスパーソンに役に立つ情報を提供できるし、自分たちにとっても欲しいと思える今のflierの初期構想でした。
本の要約サイトflierの特徴(https://www.flierinc.com/より引用)
そして一度起業アイデアを思いついてしまうと、仕事が手につかなくなってしまったのです。コンサルタントにはプロフェッショナルとして100%以上の集中力が求められるので、そんなフワフワとした状態でやる仕事ではない、と考えて起業しました。
その時は起業してダメだったら1年で辞める、と自分で線を引いて始めてみました。コンサルタントは手に職がついているので、一生仕事にあぶれることはないとも言えます。だから、事業の推移によってはコンサルタントに戻るという選択肢を取る可能性もあったと思います。不退転の決意というカッコいいものではありませんでした。
起業が目標ならコンサルタント経由よりも先に起業したほうが良い
聞き手:コンサルタント経験は起業にどのように役に立ちますか?
大賀氏:コンサルタントを経験し経営指標を読めることは意味があるし、コンサルティングで学んだことも役にも立ちます。ただ、コンサルタントが起業への最短ルートなのか、私にはわかりません。
起業をしてからでも成長はできます。起業をしてからの経営者間のネットワークや、起業後の自分の体験から学ぶことも多い。その分、先に起業するほうが最短かもしれません。
ただ、コンサルタントとして全力で仕事をして、その先に起業があるならそれでもいいと思いますが、起業する準備として何かをするのはお勧めしません。コンサルタントとしてのビジネス経験や人脈も役に立つと思いますが、ゴールが起業ならば、そこを通過する必要はないと思います。
トップマネジメントに必要なスキルはコンサルタントでは学びにくい
聞き手:経営者になってみてコンサルタントとの違いは何だと思いますか?
大賀氏:コンサルタントは軍師。軍師にとって必要なことは策を練ること、組織のアレンジ、キーマンのモチベートだと思います。一方、起業家はトップマネジメント。やるべきことは、会社としての価値感やマインドセット、理念の設定。そして、それに従いどういうメンバーを集めるかという意思決定、トップとしてのコミットメント、事業に対しての熱量、従業員に対しての愛情、人間性、そういうことが大事です。
事業モデルを考えることは、優秀な参謀と協力する、という選択肢もあります。しかし、CEOであればCEOとしての役割をしっかりやらなくてはいけません。ただ、コンサルタントとしてはトップマネジメントのスキルは学びにくい面があると思います。
本に対する想いや理念で共感してメディアドゥ傘下に
聞き手:メディアドゥ傘下に入った理由はなぜですか?
メディアドゥ傘下に入ったことについて話す大賀氏
大賀氏:元々はメディアドゥと事業提携の話をしていました。メディアドゥの経営陣の方々と話をするうちに本に対する想い、事業への想い、出版業界への想いなど共感することが多く、メデイアドゥ傘下に入ることを決めました。
聞き手:決断に迷いはありましたか?
大賀氏:会社自体の資本を変えることは大きな変化ですが、会社としてどちらが正しい道かとシンプルに考えればそんなに難しい決断ではなかったです。ベンチャー企業には成長を早めることが宿命づけられているので、そのためには良い縁だと思いました。
聞き手:メディアドゥ傘下に入って成長のスピードは上がりましたか?
大賀氏:想定通り成長スピードが上がってきています。メディアドゥと一体になって、色々な案件を仕込んでいます。平行で10本ぐらい走っており、一つ一つ成果も上がり始めています。
人の繋がりや信頼がビジネスを動かしているのだとつくづく思います。何もない中で起業した自分には足りない部分が多くありました。メディアドゥの歴史の中から紹介される様々な案件があるし、自分たちだけでは出られないイベントに参加することもできる。
メディアドゥの傘下に入ったおかげで、間違いなく、成長スピードは上がっていると思います。
コンサル業界ニュース
編集部による取材