2021.12.23 エンジェル投資|資金調達手法の特徴・投資家の探し方・出資を引き出すポイント
スタートアップの起業家にとって、創業時に資金を集めるのは大変なことです。これは皆さん自身の経験や、同様にスタートアップを行った起業家が直面した問題から、すでに十分ご存知かもしれません。この一つの資金源となるのがエンジェル投資家です。今回の記事ではエンジェル投資とは何か、エンジェル投資家からの資金調達方法の特徴、投資家の探し方、出資を引き出すポイントなどをご紹介します。
エンジェル投資家とは何か
エンジェル投資家とは、創業間もないベンチャー企業に対して資金を提供する裕福な個人投資家のことをいいます。
一般的な出資の見返りとしては、株式や転換社債になります。
創業間もないスタートアップ企業にとって、エンジェル投資家は当初の自己資金および家族や友人の少額資金から、機関投資家(いわゆるベンチャーキャピタル)までの間の資金需要を埋める役割を果たします。
また、エンジェル投資家の多くは既に成功した起業家や経営者、または引退した経営者などであり、純粋な経済的リターンのみでなく、後進の起業家の支援をしたい、社会的貢献をしたいなどの興味を持っていることも多いです。
エンジェル投資とその他の資金調達との違い
それでは、ここからはエンジェル投資とその他の資金調達との違いについて解説していきます。
ベンチャーキャピタルとの違い
エンジェル投資とベンチャーキャピタルによる資金調達は、基本的には両方とも株式などのエクイティ調達であり、起業家側から見れば同じような方法に見えます。
確かに似ている部分もありますが、ここではベンチャーキャピタルとの違いについて解説します。
主な違いは、出資者・出資額・出資のステージ・経営への関与などです。
1)出資者
一般的にエンジェル投資家は個人で、既に持っている財産から投資を行います。一方、ベンチャーキャピタルは投資会社であり、主催者であるジェネラル・パートナーが自己資金である程度の出資をする場合もありますが、一般的には投資家が出資した資金を法人として運用します。
2)出資額
上記のエンジェル投資家が個人である理由から、それぞれの投資家が出資する金額は一般的に比較的小さいです。
3)投資ステージ
上記のエンジェル投資家の出資金額が小さいという理由により、まだ事業が軌道に乗り始めたばかりのアーリーステージで、資金需要の金額も比較的小さい時の資金調達に向いています。
4)経営への関与
出資先のベンチャー企業の経営への関与については、個人であるエンジェル投資家が経営のメンターとしてアドバイスや助言をすることが多いものの、出資金額が小さいため、取締役会におけるポジションを要求することはあまりありません。
それに対し、ベンチャーキャピタルは一度にかなりの金額を投資し、特にそのラウンドのリードを取る最大の出資をした場合、取締役会への1名派遣を条件にすることが多いです。そのため経営判断に深く関与することになります。
金融機関との違い
エンジェル投資家の株式や転換社債などの割当増資で資金調達を行う場合、銀行など金融機関からの資金借り入れとは違い、毎月の返済が必要ありません。
成長途上でまだ十分なキャッシュフローが出ていないスタートアップ企業にとって、毎月元本・利子の返済をしていくことは難しいので、スタートアップは主に銀行借入ではなく、エンジェルやベンチャーキャピタルなどの投資家からエクイティによる資金調達をするケースが多いです。
エンジェル投資の特徴
次に、エンジェル投資による調達の主なメリット・デメリットを解説します。
メリット
エンジェル投資家から投資を受けるメリットとして、主に以下のようなものがあります。
1)毎月の返済義務がない
銀行などの金融機関から融資を受けると、毎月元本と利息を返済しなければなりません。しかし前述のように、エンジェル投資家からの出資の場合は主にエクイティ、株式の新規発行などによって資金を調達することが多いため、元本や利息の支払いは一切必要ありません。
2)判断の速さ
大手のベンチャーキャピタルなどと比較すると、エンジェル投資では個人が自分のお金での出資を決めるため、出資までの決断が速いこともあります。
(注:ただし米国のベンチャーキャピタルなどは非常に決定が速く、場合によっては約一週間から三週間単位で決まることもあるので、その点ではエンジェル投資が必ずしも速いとは言えないこともあります。)
3)経営アドバイスをもらえることもある
エンジェル投資家は既に成功している、または IPO や売却の経験者であることも多いため、その経験に基づいた経営アドバイスがもらえる可能性があります。
また前述のように、エンジェル投資家は単に金銭的なリターンだけではなく、自らの知見を新しいスタートアップに提供することで活かしたいという興味もあるので、この部分が資金以上の重要な経営メリットになることもあります。
デメリット
一方、いくつかデメリットもあります。
1)出資額が小さい
一般的にエンジェル投資家からの出資額は、機関投資家であるベンチャーキャピタルと比べて小規模であることが殆どです。資金需要の規模が大きい時には、エンジェル投資だけでは足りない場合が多いです。
2)株主の人数が多くなる
ある程度の規模の資金調達をしようとすると、一般的にエンジェル投資家だけでは投資額が小さいため、多数のエンジェル投資家を集める必要があり、探すのに手間と時間がかかるだけでなく、成功しても株主の人数が非常に増えてしまいます。
多くの株主がいると、その後の経営方針・資金調達などにおいて確認をとらなければならない数が多く、事務手続きだけでも煩雑になり、もっと悪いケースの場合は、経営判断をするのに時間がかかってしまうこともあります。
3)トラブルなどの可能性
お金にまつわることに関しては、ある程度の割合でどうしても詐欺やトラブルなどに遭遇します。
しかも、プロフェッショナルである金融機関やベンチャーキャピタル投資家に比べ、エンジェル投資家はまだ投資の経験が少ないことも多く、投資法としても新しいため、誤解や「元本保証を期待していた」などのトラブル割合は多くなりがちです。
ですので、素人のエンジェル投資家といっても、ある程度の投資の理解や経験があること、投資契約をしっかり理解してもらうことが前提になります。
エンジェル投資家の探し方
エンジェル投資家を探すには、株式市場のように一つの取引の場があるわけではないので、様々なルートを模索する必要がありますが、一般的なルートとしては以下の二つが多いようです。
投資家マッチングサービス
エンジェル投資では起業家と投資家が出会う機会があるのが前提で、米国では様々なエンジェルグループなどもありますが、日本ではマッチングサービスが一般的なようです。
マッチングサービスでは、登録した起業家と投資家の間でスタートアップの内容の他に、いくら出資するのかや、その他の条件を直接交渉し、出資条件を決めることが可能です。
株式投資のクラウドファンディング
もう一つは株式投資型のクラウドファンディングを利用する方法です。
クラウドファンディングでは、一人で投資する場合よりも少額からエンジェル投資を行うことができます。
他にも最近では、起業家が投資家に向かって自分の会社への出資をアピールする、いわゆるピッチコンテストも多くなっていますので、こういったコンテストの参加も一つの手段と言えます。
エンジェル投資家から出資を引き出すポイント
事業計画、書類など
エンジェル投資家とマッチングサイトで出会った後、投資を決める前に面談などを経るのが一般的ですが、その際には様々な書類の提出を求められます。
スタートアップのビジネスプラン(事業計画)により、まずその事業の可能性を判断されますが、実際の投資の前には会社の法的書類、決算書などの書類提出が必要なのが一般的です。
将来性
エンジェルやベンチャーキャピタルにかかわらず、投資家は出資したお金のキャピタルゲインを得ることを目的としているので、将来性の高い企業に投資したいと考えます。
したがって将来性があること、特に将来上場や、大企業による買収の可能性が多いのをアピールすることが大切です。
市場適合性
最近では特に、スタートアップ企業が持つ製品やサービスの「市場適合性」(英語でProduct Market Fit)が重視されています。
これは米国の著名なベンチャーキャピタリストである、マーク・アンドリーセン氏が最初に提唱した言葉で、「市場適合性がなければその他全ては無意味だ」と言い切っています。
市場適合性とは、そのスタートアップ企業が計画している製品やサービスを、市場が本当に必要としているかどうかです。
まとめ
エンジェル投資家は、起業間もないスタートアップの資金源として最適なリソースのひとつです。
彼らは資本だけではなく、経営のガイダンス・人脈・参入しようとしている業界のネットワークや経験を提供してくれることがあります。
エンジェル投資を成功させるには、資金調達を受ける秘訣だけでなく、そのエンジェル投資家が資金以外にどういった事を提供してくれるのか、またどういった契約形態が適しているのかなどを、十分に考慮する必要があります。
著者紹介
安藤千春/ Chako Ando
米国ベンチャー・イノベーションコンサルタント。シリコンバレーを拠点とし、米国の先端事例を参考に新規事業・米国ベンチャー提携・イノベーション手法・調査、投資案件、日本企業との橋渡しを業務として活動。Cando Advisors LLC 代表。
(経歴)スタンフォード大学経営大学院修士(MBA): 東京外国語大学英米語学科卒業。旧日本興業銀行サンフランシスコ支店にてベンチャー・ファンド投資、住友銀行キャピタル・マーケッツ(NY)にてデリバティブ部門、大和証券ニューヨーク現地法人にてM&A、企業提携を担当。松井証券などのオンライン株式トレーディング・システム開発ベンチャー、ファイテック研究所の設立に参加。