2021.11.25 ゼロサムとは|ゼロサム思考の弊害やゼロサムゲーム脱却方法を解説
「ゼロサム」とは外国為替の世界などで広く用いられる用語ですが、実は様々なビジネスシーンでよくみられるものです。今回は、ゼロサムやゼロサム思考とは何かを説明したうえで、ビジネスにおいてどのような弊害があるのか、また、どのようにしてゼロサムゲームから脱却するのか等について解説します。
目次
・ゼロサムとは
- ゼロサムから派生した、ゼロサム思考とは
- ゼロサム思考の例
・ビジネスにおけるゼロサム思考の弊害
- 部門やチームにおけるコンフリクト
- 事業停滞
・ゼロサムゲームからの脱却
- 競争から棲み分けへ
- 競争から共創へ
– セブン銀行
– 家庭用録画媒体の規格争い
・プラスサムゲーム
・市場創造に役立つ「ジョブ」の視点
・まとめ
ゼロサムとは
ゼロサム(zero-sum)とは、一方が利益を得た場合、もう一方が同じ分だけ損をすることで、全体としてプラスマイナスゼロの状態になることを指します。経済理論の「ゲーム理論」の場合、上記のようなゼロサムの状態になるものをゼロサムゲームと呼びます。これは、例えば二人対戦のゲームをはじめ、競馬や競輪などの賭けごと、株式や債券、外国為替等の市場取引などが該当します。
ゼロサムから派生した、ゼロサム思考とは
ゼロサム思考とは、心理学の世界ではゼロサム・バイアス(zero-sum bias)と呼ばれる認知バイアスのひとつで、実際にはゼロサムの状況にない場合においても、物事を0か100かで判断し、「誰かが勝てば、その分、敗者がいなければならない」と考える思考を指します。
ゼロサム思考の例
ゼロサム思考は社会のいたるところで見ることができます。例えば、学校です。相対評価で決まる試験において、友人から勉強を教えて欲しいと相談された際、自分が教えることで友人のテストの得点が伸びると自分が損をすると考えて教えてあげない、といったケースです。
もう少し大きな視点で見てみると、例えば移民問題に対する反発デモもゼロサム思考の現れといえます。移民反対理由の代表的なものに「移民が増えることで仕事を奪われるのではないか」、といったものがありますが、そうした不安が高まる背景には、限られた資源(この例では「雇用」)を誰かが得ると、その分損をする人が出るというゼロサム思考が存在しています。
ビジネスにおけるゼロサム思考の弊害
ゼロサムの定義やゼロサム思考の影響について触れたところで、ここからはビジネスの世界におけるゼロサム思考の弊害についてみていきましょう。
部門やチームにおけるコンフリクト
例えば、セールス部門において、顧客獲得のノウハウが詰まったプレゼン資料やトークスクリプトなどの共有を拒んだり、ソフトウェア開発部門において、ソースコードや学習に役立つ情報の共有を拒んだりといったケースはよく見られる光景かもしれません。これらは、同僚の評価が高まることで自分の昇進やボーナス査定にネガティブにはたらくと考える、いわばゼロサム思考的な発想が見え隠れするものです。
もちろん、ゼロサム思考は現場だけに起こるものではなく、社長や役員等々のポストをめぐってリーダー同士が争い、足の引っ張り合いをするケースもあるでしょう。
これらのケースは、多くの組織で程度の差こそあれ、少なからず存在する問題ではないでしょうか。本来、会社という組織単位でみれば仲間であるはずの社員同士が協力関係を築けていない場合、背景にゼロサム思考がはたらいている可能性があります。
事業停滞
市場投入時には顧客に付加価値を感じてもらえていた商品・サービスも、時間の経過とともにライバル企業が参入し、機能や品質に差が出にくくなってしまうケースがあります。そうした市場においては、機能や品質で差別化が難しいために過当競争に陥り、価格競争によって利益率が悪化する場合があります。
ゼロサムゲームからの脱却
前章では、ビジネスにおけるゼロサム思考の弊害について述べました。ここでは、ビジネスにおけるライバルとの競争に焦点をあて、いかにゼロサムゲームから脱却するかをみていきたいと思います。
競合企業に勝つために「差別化」が大事であるという言葉は誰もが耳にしたことがあると思います。しかし、差別化について考える際の着眼点として、「機能価値を差別化する」といったことだけではゼロサムゲームから抜け出すことはなかなか難しいでしょうiPhoneが登場する前のガラパゴス携帯の争いを想像すればわかりやすいですが、単に機能を強化するだけでは厳しい競争から脱却できません。
では、どうすればゼロサムゲームから脱却できるのでしょうか。その答えのひとつがライバルと「競争しない」という方法です。仮に、あなたが業界リーダー以外の企業だとします。ライバルに勝つべく、機能的な差別化を図った新しい商品やサービスを市場投入したとすると、リーダー企業はその差を埋めるために同質化戦略をとる可能性があります。同質化戦略とは、業界2位以下の企業が新戦略を講じてきたのに対して、同質の戦略を打ち出すことで、競合企業の戦略効果を減退させようとするものです。リソースに勝る業界リーダー企業に同質化戦略を講じられた場合、2位以下の企業は苦しくなります。従って、ゼロサムゲームを脱却するための「競争しない」という戦略とは、ライバル企業に「いかに同質化戦略を打ち出されないようにするか」という戦略ともいえます。
ライバルとの競争を避け、相手に同質化戦略を取らせない方法は大きく2つあります。
競争から棲み分けへ
ゼロサムゲームを脱却する方法の一つ目はライバルと競争するのではなく、棲み分けるというものです。いわゆる「ニッチ戦略」といわれるものであり、ライバル企業が同質化戦略を取れないところでビジネスを行う方法です。ライバル企業にとって市場が小さ過ぎて参入の旨味がない場合や、参入において必要な資源が特殊な場合、ライバルと直接的な競争を避けることにつながります。
競争から共創へ
もう一つの方法は共創あるいは共生というものです。これは相手と競争するのではなく協調する方法です。ライバルにとって敵対関係でいるよりも協調した方が利益になる場合、ライバルが同質化戦略を取る必要性がなくなり、共に支え合う関係を築くことにつながります。
協調戦略には、ジョイントベンチャーやアライアンス、コンソーシアム、ネットワーキング、パートナーシップ、コラボレーションなど様々なものがありますが、いずれも競争せずに相互利益を求めるものです。
具体的な例をみていきましょう。
セブン銀行
協調戦略の成功事例としてはセブン銀行があげられます。
“例えば、セブン銀行はATMに特化した銀行であるが、競合行はセブン銀行と提携し、セブン銀行のATMで自行のキャッシュカードが使えるようにし、同時にコスト削減のために自社のATM店舗を縮小している。こうした戦略を、「協調戦略」と呼ぶ。”
出典:「利益を生み出す、非競争のすすめ」
家庭用録画媒体の規格争い
モノづくりの世界では、新しい技術の登場とあわせてデファクトスタンダードを巡る規格争いがたびたび生じますが、これはネットワーキング効果が勝敗に大きく左右するためです。中でも有名な事例といえば「VHS」と「ベータ・マックス」の覇権争いでしょう。
当時、家庭用録画媒体市場にはVHSとベータ・マックス以外にもU規格、Vコード、オートビジョン方式、VX方式など、様々な規格が乱立していましたが、結果的にはVHSが実質的なデファクトスタンダードとなりました。VHS側の立場から見ればゼロサムゲームに勝利したといえるかもしれません。しかし、撤退した側の立場から見た場合、ゼロサムゲームに参入せずに(真っ向から競争をするのではなく)、協調戦略で生き残りを図るという選択肢もあったのかもしれません。
プラスサムゲーム
競争から共創への転換には、ゼロサムゲームの思考からプラスサムゲームの思考に切り替える必要があります。プラスサムゲームとは、一方の利益が必ずしも他方の損失にならないケースを指します。つまり、ゼロサムゲームのように利得の合計がプラスマイナスゼロになるのではなく、利得の合計がプラスになる状態がプラスサムゲームの特徴です。
市場創造に役立つ「ジョブ」の視点
ゼロサムゲームからの脱却を目指して、5フォース分析やブランデンバーガーの「価値相関図(Value Net)」などのフレームワークを用いて競争環境を整理することも大切ですが、忘れてはならない視点が顧客視点であり、さらにいえばジョブの視点です。
クレイトン・M・クリステンセン教授が提唱する「ジョブ理論」によれば、顧客の購買においては必ず「成し遂げたい目的」があり、ジョブ理論ではその目的を「ジョブ」と位置付けています。
一見、直接的には競合といえない複数の商品があったとして、もしそれらが顧客にとって同じジョブを解決するものであれば、それは同じ財布の奪い合いを意味します。従って、ジョブの設定次第では自社の収益源を広げることも可能なのです。
まとめ
今回は、ゼロサムやゼロサム思考の定義、また、ビジネスにおけるゼロサム思考の弊害やゼロサムゲーム脱却方法などについて解説しました。競合との競争が激しいなかにおいて、ゼロサムゲームから脱却するためには、ジョブの発見や競合の再定義が有用です。なにかと差別化が叫ばれるビジネスの現場において、あえて「競争しないためにはどうすればよいか?」を考えてみてはいかがでしょうか。