2021.10.11 マインドフルネスとは|ビジネス活用効果・社内導入時の注意点
昨今、マインドフルネスがビジネスシーンで注目を集めており、研修に導入する企業も増えています。そこで本記事では、マインドフルネスとは何か、意味や由来を整理したうえで、マインドフルネスのビジネスシーンにおける活用効果や導入事例、社内導入の際に気を付けるべきポイントなどを解説します。最後には、初心者でも取り組みやすいマインドフルネスのやり方もご紹介しますので、是非、ご参考ください。
目次
マインドフルネスとは
まずはマインドフルネスとは何か、その意味や由来について解説します。
マインドフルネスの意味
日本マインドフルネス協会によると、マインドフルネス(mindfulness)とは、“今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること”と定義されています。
マインドフルネスの由来
マインドフルネスと聞くと新しい考え方のように思われるかもしれませんが、実は仏教の瞑想に由来し、東洋では約2,500年の歴史があるといわれています。
仏教本来のマインドフルネスは、仏教の教えとして説かれる要素の一つですが、現代のマインドフルネスは、元は医療を目的に登場した背景があり、1979年にマサチューセッツ大学医学大学院の教授で、同大でマインドフルネスセンターを創設したジョン・カバット・ジン教授が、痛みやストレス関係の病気を持つ人々のために、心理学の注意の焦点化理論と臨床的技法を組み合わせて「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」を開発したことが出発点といわれています。
その後、マインドフルネスの効果がビジネス界から注目を集め、GoogleやAppleといったIT企業やシリコンバレーのスタートアップ企業でマインドフルネスに関するプログラムが導入されたことで、ビジネスシーンにおいても注目が高まっています。
ジョン・カバット・ジン教授
※画像引用:Jon Kabat Zinn Me Me Me
マインドフルネスの効果
マインドフルネスは「今、この瞬間」にのみ意識を向けている「意識の状態」を表すものですが、マインドフルな意識の状態になることにどのような効果があるのでしょうか。ここでは、マインドフルネスの効果について解説します。
精神的効果
まずはマインドフルネスの精神的効果について見ていきましょう。
集中力の向上
学習や仕事などで机に向かったものの、考えるべきことと全く異なることが頭に浮かんでしまい、気がつけば結構な時間が経っていた…というようなことは誰もが経験したことがあるはずです。頭に浮かぶものが、答えが出ないようなネガティブな悩みばかりの場合、気が付かないうちにストレスが蓄積され、憂鬱な気持ちになったり、何も手につかなくなったり、よく眠れなくなったり、様々な問題につながる恐れがあります。
「今、この瞬間に意識を集中する」というマインドフルな状態になることは、不安や悲しみ、怒りなど、今、感じる必要のないネガティブな意識に囚われることを避け、心を落ち着かせることにつながります。
感情知性(Emotional Intelligence:EQ)の向上
感情知性(Emotional Intelligence:EQ)とは、心の知能指数ともいわれており、自分や他人の思考や感情に気づき、調整する力を指すものです。
EQ研究の第一人者である、心理学者のダニエル・ゴールマンは、EQを下図の5つの領域に分類しています。
感情知性(EQ)の要素
※引用:Harvard Business Reviewを参考に作成
EQの要素は、どれも人が社会で生きていくうえで欠かせない能力ばかりです。マインドフルネス瞑想を習慣的に行い、EQが向上すると、例えば、以下のような効果が期待できます。
・自己認識力(セルフウェアネス)が向上することで、自分の本当の感情を自覚でき、納得いく決断が下せるようになる。
・自己抑制力が向上することで、不安や怒りに振り回されにくくなる。
・共感性が向上することで、他人の感情や思考に対する気づきやすくなり、関係者と合理的な決定を下しやすくなる。
・ソーシャルスキルが向上することで、他者と良い関係を築いたり、改善することができる。
身体的効果
続いて、マインドフルネスの身体的な効果を解説します。
免疫機能の改善(慢性的な痛みの改善)
先述した通り、マインドフルネスは、痛みやストレス関係の病気を持つ人々のために開発された「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」から始まった経緯があり、免疫機能の改善や慢性的な痛みの改善に一定の効果があるといわれています。
例えば、米国・ワシントン大学のDaniel C. Cherkin氏らが慢性腰痛を持つ人を対象に行った試験*によると、MBSRは痛みや機能的制限の改善について、通常ケアよりも有効との結果が得られたそうです。
*出典:原著論文
マインドフルネスの効果が出るまでの期間
様々な効果が期待されるマインドフルネス。では、マインドフルネスを始めてから効果を実感するまでの期間はどの程度なのでしょうか。
株式会社Melonが2020年8月に実施したマインドフルネスの効果調査[Webアンケート調査(有効回答者273名)]によると、4週間の継続で51.6%の人が、8週間の継続で85.3%の人がマインドフルネスの効果を実感したという結果が出ています。
※出典:prtimes|株式会社Melon調査
また、マインドフルネスの研究が進んでいる欧米において、脳科学研究のエビデンスとして実証されているものでいえば、マインドフルネスの効果が出る期間の目安として「8週間」といわれています。
ビジネスシーンに広がった背景
さて、ここからはマインドフルネスとビジネスの関係について見ていきましょう。
1979年にジョン・カバット・ジン教授がマインドフルネスストレス低減法(MBSR)を開発した当初、MBSRがビジネスシーンから注目を集めることはありませんでした。
マインドフルネスがビジネスシーンに広がる大きなきっかけとして有名なものには、元Googleのエンジニアのチャディー・メン・タンが開発したSearch Inside Yourself(サーチ・インサイド・ユアセルフ)というマインドフルネス・プログラムがあげられます。
チャディー・メン・タンは、Search Inside Yourselfプログラムの開発において「科学」を重視し、すべての議論が科学的に説明できるよう心がけました。また、現代の忙しいビジネスマンが実践しやすいよう、何年も修行せずに短時間で取り組める形にしたことも特徴の一つです。
Search Inside Yourselfがビジネスシーンで注目された背景
- ・「科学」による宗教色の払拭
- ・忙しいビジネスマンが取り入れやすい「短時間」で行えるプログラム
- ・Googleという世界最高峰の企業での実践
マインドフルネスのビジネスへの活用効果
GoogleのSearch Inside Yourselfプログラムによって、ビジネスシーンへ広がったマインドフルネス。ここでは、ビジネスへの活用効果について解説します。
労働生産性の向上
日本の労働力人口減少が叫ばれる中、企業にとっては労働生産性の向上が重要なテーマとなっています。ITを駆使した効率化や業務プロセスの見直しも大切ですが、個人の生産性向上も避けられない課題です。
個人の労働生産性向上のキーワードとして、「ストレスとの向き合い方」や、「リーダーシップ」があげられますが、これらに対してマインドフルネスの効果が期待されています。
ストレスとうまく付き合えるようになる
経営者はもちろん、コンサルタントや専門職、その他様々な分野で活躍するビジネスマンにとってストレスはつきものです。しかし、もしストレスを完全に無くすことが難しいとするならば、ストレスマネジメントの術を身につけ、ストレスとうまく付き合えるようになる必要があります。そして、マインドフルネスはストレスマネジメントの一環としても活用でき、効果を発揮することが期待されています。
ストレスマネジメントのアプローチとしては主に、以下があげられます。
①ストレスの要因へのアプローチ
②ストレスに対する個人の心や身体・習慣といった特性へのアプローチ
③ストレス反応に対するアプローチ
例えば、マインドフルネス瞑想の実践を続け、ストレス要因そのものを「ただ観る」ことで捉え方を変えたり、ストレス反応が心に出た際に呼吸を意識したマインドフルネス瞑想で心を落ち着かせるといったことも考えられます。また、そうしたマインドフルネス瞑想を習慣化する中で、個人特性としてストレスを感じにくい心や身体になるといった効果も期待できます。
こうしたストレスに対するマインドフルネスの効果については、近年、脳科学などの研究が進んでおり、マインドフルネス瞑想の実践を繰り返すことで脳の偏重体や海馬が活性化し、ストレス耐性やストレスからの回復力(レジリエンス)の向上が期待できると考えられています。また、そうした科学的なエビデンスが増えてきたことで、マインドフルネスの注目が高まっています。
リーダーシップにつながる
ビジネスマンは高い目標に向けて日々難しい判断を下し、時に失敗と向き合いながらも乗り越えなければなりません。また、上司や同僚、部下といった社内メンバーや外部のパートナー企業など、実に様々なステークホルダーと協力し合いながら業務を遂行しなければなりません。
そうした中で重要となるスキルにリーダーシップがありますが、実はマインドフルネス瞑想の実践はリーダーシップにつながると考えられています。これはマインドフルネス瞑想の実践が感情知性(EQ)の向上につながり、EQの向上がリーダーシップにつながると考えられているためです。
EQの研究で有名な心理学者のダニエル・ゴールマンは、EQを自己認識、自己抑制、動機付け、共感性、ソーシャル・スキルの5つに分類し、これらの5つの要素と事業部門の業績との関係を分析しています。その結果、業績の優れた経営幹部と平均的な経営幹部とを比較した場合、前者の経営幹部ほどEQの要素がリーダーの資質の中心へと位置するようになり、能力差のほぼ9割はIQではなくEQにあることがわかったそうです。
従業員の健康・幸福度の向上
終身雇用の崩壊、過重労働を良しとしない文化の醸成、フリーランスなど多様な働き方の普及、AIなどのテクノロジーの進化・普及による仕事の変化など、世の中の変化とともに、人々の労働に対する意識も日々変化しています。
現代では、従業員の「働きやすさ」や「働きがい」、「健康・幸福への配慮」などへの注目が高まっており、優秀な人材の獲得のためにも、左記に関する取り組みの一環としてマインドフルネスを導入する企業が増えてきています。
マインドフルネスのビジネス活用事例
続いて、マインドフルネスを導入している企業例をいくつかご紹介します。海外企業ではIT企業をはじめ、コンサルティングファームや金融系などでもマインドフルネスが導入されています。国内ではYahoo!JAPANやmercari、sansanなど、IT企業を中心に導入が広がっています。
Search Inside Yourselfプログラムについて前述したとおり、マインドフルネスがビジネスシーンに注目されるきっかけをつくったのはGoogleです。約7週間に及ぶトレーニングを通じて、集中力や創造性の向上、ストレス軽減を図る目的で行っています。
マッキンゼー・アンド・カンパニー
米国大手コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーでは、社員の幸福や健康を重視し、自社開発のマインドフルネスプログラムを社員や外部企業に提供し、効果をあげているそうです。
ゴールドマン・サックス
コーチングも含めた講習やアプリを用いた瞑想など、主にレジリエンスを目的としたマインドフルネスを研修に取り入れています。
マインドフルネスを自社で導入する際のポイント
ここでは、マインドフルネスを自社で取り入れる際に押さえておきたいポイントを解説します。
マインドフルネスの活用目的を明確にする
まず、最初に取り組むべきはマインドフルネスを自社に導入する目的の明確化です。その際、現状の課題を明らかにするとともに、誰に・何のためにやるのかを整理するようにしましょう。「誰に」でいえば、管理者向けなのか、現場メンバー向けなのかといったことで内容が変わってきますし、「何のためにやるのか」によっても内容が変わってくるためです。
目標設定
目的が設定できたら、目標設定を行います。これは後々、振り返りを行った際に改善策を検討するうえでのベースとなるので、事前に整理しておきましょう。
プランニングと継続できる環境づくり
目的や目標を定めたら、実際にどうやるかを検討します。最近ではマインドフルネスに関するプログラムを提供する研修企業も増えてきているため、活用してみても良いでしょう。
マインドフルネスの効果を感じるまでには、一般的に1〜2ヶ月の継続が必要ともいわれています。日常業務で忙しい従業員に参加してもらうことを考慮すると、無理なく継続しやすいように設計すべきでしょう。
効果測定
会社として一定のコスト(時間やお金)を負って取り組む以上、効果測定を行い、改善に繋げていく必要があります。
マインドフルネスの効果測定として活用できるものとしては、MAAS(Mindful Attention Awareness Scale)があります。MAASは日常生活と関わる15の項目に対して6段階で採点し、その平均値で心の状態を測定するものです。
マインドフルネスのやり方
マインドフルネスというと呼吸への意識を高める「マインドフルネス瞑想」を想像する方が多いと思いますが、実は瞑想以外にもいくつかのやり方があります。例えば「歩く」、「対話する」、「書く」、「食べる」など様々です。「今、この瞬間」への意識を高めた状態をつくれるのであれば、瞑想以外の方法でも問題ないので、自分に合ったやり方を実践してみましょう。
マインドフルネス瞑想
呼吸を整え、自分の呼吸への意識を高めます。様々な雑念が頭に浮かんできたら、雑念が頭に浮かんでいる自分の状態を認識しようとします。ここで無理に考えを改めようとしたり、考える事自体をやめたりする必要はありません。呼吸への意識を高めることと、その中で頭に色々なことが浮かんでいる状態を認識するということを繰り返すことが重要です。
マインドフルネス ウォーキング
歩く中で足と地面の接触感覚や筋肉の張りといった身体の状態に意識を集中させ、認識しようとする方法です。瞑想が苦手な人や瞑想する時間がないといった忙しい方でも手軽に取り入れられる方法です。
マインドフルネス リスニング
複数人での対話の中でマインドフルな状態を把握する手法です。相手をよく観察し、聴くことに意識を集中させることがコツです。対話の相手が必要なことと、多少の慣れが必要な点で他の手法に比べて手軽とはいえませんが、うまく実践できるようになるとビジネスシーンでの共感や環境認識力の向上が期待できます。
ジャーナリング
テーマを決め、そのテーマについて集中して書くという手法です。「書く瞑想」ともいわれ、誰でも手軽にはじめることができます。テーマは悩み事についてでも、将来の自分についてでも何でも構いません。コツは5分や10分など、事前に書く時間を決めておき、書き始めたら難しく考えずに頭に浮かんでくるものをどんどん書き出すことです。
この他にも、呼吸ではなく、身体の部位への意識を高める「ボディスキャン」という瞑想手法や、食事のみに集中する「マインドフルイーティング」といった方法もあります。
まとめ
本記事では、マインドフルネスとは何かを整理したうえで、マインドフルネスのビジネスシーンにおける活用効果や導入事例、社内導入の際に気を付けるべきポイントなどを解説しました。マインドフルネスは仏教をルーツとし、現代では医療を目的としてスタートしました。その後、心理学や脳科学など様々な側面から研究が進み、Googleの研修に導入されたことなどからビジネスシーンへと広がります。マインドフルネスはリーダーシップの中心的な要素である感情知性(EQ)を向上させることが期待されており、科学的エビデンスの増加も後押しとなり、昨今ではビジネスシーンからも注目が高まっています。
マインドフルネスを社内に取り入れる際には、目的や目標をはじめ、継続しやすい環境の整備、効果測定なども考慮して検討を進めると良いでしょう。
最後にマインドフルネス瞑想をはじめ、いくつかのやり方をご紹介しました。マインドフルネスへの理解を深めるためにも、まずは気軽にできるところから試してみてはいかがでしょうか。