【最新テックトレンドの裏側】第5回:「コンサルタントの強みと発信力」は“プレゼンテクニック”と“ストーリーテリング”
更新日:7月6日
はじめに
今回のコラムでは、コンサルタントとしての強みと発信力についてお話してみたいと思います。コンサルタントのお仕事は、お客様が抱えている課題や問題に対して、現状(AS-IS)とあるべき姿(TO-BE)から実現可能な解決先(CAN-BE)を提案・実行(または仕組みの実装)する仕事です。業務やシステム、業界や特定の要件にさまざまなコンサルタントがありますが、コンサルタントという肩書に明確な定義はなく、それぞれのケースごとに求められる知識やスキルが異なります。(ITコンサル、戦略コンサル、業務コンサルなど)しかし、優れたコンサルタントには共通したスキルがあります。それが、“プレゼンテクニック”と“ストーリーテリング”(イメージを伝えるスキル)だと筆者は考えています。今回は、コンサルタントの強みの源泉となる発信力、つまり「プレゼン」についてお話いたします。
コンサルタントのプレゼンテーションテクニックとは
お客様向けに提案やコンサルティングを行う際に、プレゼンする機会が増えていると思います。大半の人は、プレゼンで現状認識から課題解決に至るストーリーで語ることが多いようです。この場合は、次のような順番でプレゼンが進行します。
①起:現状認識と背景説明(状況説明)
②承:現状課題の洗い出しと整理(問題提起)
③転:課題解決の計画と実行(対策提案)
④結:実行結果と期待効果/評価(結果訴求)
このストーリー構成は「起承転結」の4段階の順序で作られています。このストーリー構成のメリットはプレゼンを状況説明から行うことで、お客様である聞き手に対して現状を理解したうえで現在抱えている課題を共有することが出来るので、誰にでも分かりやすく、課題のポイントを整理することで解決策がイメージしやすいというメリットがあります。“誰にでも分かりやすい”構成なので、一般的にはこの手法が良く使われます。しかし、プレゼンテーションにはこれとは少し違ったやり方もあります。それは、結論を最初に話すストーリー構成です。このやり方では、次のような3段階の順番のプレゼンとなります。
①序:問題点指摘と核心の追求(目的明確化)
②破:具体策の提示と結果に至る論理展開(提案訴求)
③急:提案の総括とクロージング(行動促進)
このストーリー構成は「序破急」といって、展開が早く短い時間で聞き手であるお客様へ行動を促すことが出来ます。経営者などの意思決定者をターゲットとしたときに、効果的な手法です。しかし、お客様全ての合意形成をして共感を得るプロセスを飛ばして核心を突くやり方なので、使い方を失敗するとプレゼンが失敗します。
「エレベーターピッチ」という言葉をご存知でしょうか?これは、数十秒というエレベーターに乗っているくらいの短い時間で、自分のビジネスについて投資家へアピールするという手法です。話すべき内容や順序をシンプルかつストレートに訴求しつつ、インパクトがあって相手に強い印象を与えることが狙いです。簡単に出来るプレゼン手法ではありませんが、ここぞというときに使って狙い通りの結果を引き出すスキルの1つです。
プレゼンの本質はイメージを伝えることとサプライズ
パワーポイントなどプレゼンテーションツールを手軽に利用できる現在では、誰でも簡単にプレゼンが出来る時代になりました。しかし、その反面、プレゼン資料に頼りすぎたプレゼンが多くなってしまいました。プレゼン資料1ページごとに、細かい文字や図表が詳細に書き込まれていて、そのページを読んだだけでは何を言いたいのか分からないのです。そんなプレゼンが世の中には溢れています。
実際に良くあるIT業界のケースについてご紹介します。
複数ベンダのコンペで良くあるのですが、提案資料に自社システムの機能を詳細に記述した提案を説明するベンダがいます。限られた時間で、会社紹介から製品説明、そしてお客様要件に対する解決策の提示、導入体制やスケジュール、保守運用を経て価格提示という内容を説明しなければならないのですが、時間配分と訴求ポイントを勘違いしているベンダがまだ多いのです。
突き詰めるとお客様が聞きたいポイントは、「導入すると何が出来るようになるのか」「導入するために必要な経営資源(費用、人、時間などリソース)がどれだけ必要なのか」の2点です。“期待する効果”と“投入すべきリソース”から“費用対効果”がイメージ出来ます。時間配分は、この2つのポイントの説明に最大限割く必要があり、イメージが伝わりやすいようにお客様の製品や具体例をあげてシンプルかつ明確に訴求する必要があります。おわかりだと思いますが、会社紹介や製品説明は省いても良い項目です。“後で読んでおいてください”のひと言で飛ばして全く問題ありません。説明が欲しい場合には、あとの質疑応答でお客様から質問されます。
“言うは易く行うは難し”なのですが、こうしたプレゼンスキルはどうすれば身につけることが出来るのでしょうか。まず必ず行うべきはこと、事前リハーサルを繰り返すことです。出来上がったプレゼン資料を使って、関係者でリハを繰り返します。お客様の参加者を想定して、どうすればイメージが伝わるのか、予想される質問にはどのように答えるべきか、競合相手にはどのような内容で強み訴求を行い、また、弱点への攻撃にはどう対処するかといったロールプレイを行います。さらに、スキルを上げたい場合にはプレゼン資料を一切使わずに、ゼスチャーと言葉だけで説明することです。筆者が所属した外資系IT会社の社長は、学生向けの説明会で一切資料を使うことなく1時間の説明を行って学生からの大喝采を受けていました。他のベンダがパワーポイントで詳細な会社紹介を行うなか、用意していたプレゼンをあえて使わないサプライズでした。このプレゼンは、言葉だけなのに際立って分かりやすく大好評でした。プレゼンが終わったときに、“こんなプレゼンも有りだろう?”という社長のいたずらっぽい笑顔が今でも忘れられません。
まとめ
プレゼンテーションは、コンサルタントの基本的なスキルです。
いろいろな手法やテクニックがあり、パワーポイントなどツールを使えば誰でもプレゼンすることが出来ます。しかし、これを極めるためには熟練の経験と実践とサプライズが必要です。言葉でイメージを伝えるのは、誰でも出来ることですが、他の誰にでもできない鳥肌が立つようなプレゼンに極稀に出会うことがあります。コンサルタントのみなさんは、これから何度もプレゼンをする機会があると思いますが、聞き手にとって忘れられないプレゼン、忘れられないプレゼンを目指してぜひ励んでください。筆者も、より良いプレゼンができるよう励みたいと思います。一緒にがんばりましょう。
著者紹介
鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)
同志社大学工学部化学工学科卒業(生化学研究室)、1989年米国総合化学デュポン社(現ダウ・デュポン社)入社、1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(プロセス系:化学プラントや医薬品開発など、ディスクリート系:組立加工工場や保全など)の業界および業務、システムの調査・企画・開発・導入の支援に携わる。2015年より一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)サポート会員となり、総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリストなどを務める。その他、エッジAIベンチャーのエイシング社アドバイザーなど。
著書:「デジタルファースト・ソサエティ」日刊工業新聞社 (2019/12/11)
共著:福本 勲 (著), 鍋野 敬一郎 (著), 幸坂 知樹 (著)