【最新テックトレンドの裏側】第4回:「コンサルタントのスキル(その2)」“データ”と“ストーリー”でイメージを伝える

更新日:6月2日

はじめに

 前回のコラムでは、“俯瞰力”と“ベンチマーキング力”というお話をさせて頂きましたが、今回、そのベンチマークについてコンサルタントのスキルとして少し掘り下げてみようかと思います。

ベンチマークとは、本来は測量などで「基準」や「水準点」を意味する言葉で、異なるものを比較するための指標を意味しています。コンサルティング領域では、簡単に企業やビジネスモデルの比較を示す言葉として使われているように思いますが、ポイントは何が違うからアウトカム(結果や効果)が違うのかを分かりやすく説明することです。誰でも知っている情報や事実から、違う結果を生む理由や背景を浮き上がらせる必要があります。つまり、比較対象となる企業やビジネスモデルのデータを把握して、ここから異なる結果に至った理由を紐解きます。ポイントは誰でも分かるように、実際の事実(FACT)に基づいた“データ”と起承転結が分かる“ストーリー”を使ってイメージを伝えることです。今回は“データ”と“ストーリー”についてお話します。

 

分かりやすく伝えるには事実(FACT)に基づいたリアルな“データ”を使う

弊社に良く来る依頼のひとつに、「ベンダや製品を比較して欲しい」というものがあります。その背景には“自社にERPを導入したいので製品比較をしたい”、“新しいERPを開発するので他社製品の機能や強み弱みが知りたい”、“ERPビジネスを広げるために周辺市場とそのベンダ・製品について知りたい”など理由があります。通常は、こうした情報を入手するために、調査会社や専門メディアなどの調査レポートやセミナー情報(講演や資料など)を入手します。とくに腕の良いコンサルタントは、こうした情報に加えてリアルな“データ”を入手できる情報源を持っています。簡単で手軽なのはネットで公開されている情報を入手したり、お金を払ってレポートを購入したりすることです。 しかし、こうして入手した情報はあまり役に立ちません。それは、そのレポートが質問項目ごとにアンケートや取材した情報をそのまま集計しているだけでユーザーが欲しい意図や目的に沿っていないからです。多くのユーザーは、自社と異なる結果を見ると「他社の例はあくまでも参考なので、ウチとは違う」と考えます。誰でも、自分が信じたいことだけ信じる傾向があるので、調査レポートとユーザーの見解が異なった場合には、ユーザー自身の事実“データ”を使って納得してもらう必要があります。事実に基づいたリアルな“データ”がその鍵です。

 

 

“データ”は利用者目線でストーリーにするとイメージが伝わりやすくなる

基幹システムの導入や工場など現場の業務改善を行う場合に、筆者が必ず行う作業があります。それは、社内で使われている社内文書(紙)やExcel管理帳票を整理してシンプルにすることです。ERPなどIT系のバックオフィスシステムの導入や、MES(生産実行システム)などのOT系のエンジニアリングシステムの再構築などで特に有効なのが、Excel管理帳票の洗い出しです。

 

 

 

これは、対象となる企業や工場の現状分析のために行うコンサルティング手法の基本です。手順はとても簡単で、次の3つの手順で行います。

 

手順1:各部門で現在利用している重要度の高いExcel管理帳票を「見える化」

手順2:Excel管理帳票をナンバリングしてそれぞれ管理者と利用者を洗い出す

手順3:内容を調べて数を絞り新しくExcel管理帳票の管理体系をつくる

 

 

 

さらに、ここでデータの整理、マスタ化やデータの正規化をしておくとシステム化や可視化をするときのスピードアップ、効率化が可能となります。筆者の最近多い依頼にデータレイクの構築があるのですが、社内にある“データ”の多くはまだExcel管理帳票のなかにあります。しかし、これは人が見るために作られているのでそのままシステムで使うのは難しく、計算式やマクロなども説明が無いのでフォームを作った人にしか内容がわかりません。現状の業務調査と並行してデータの所在や整理を進めておくのはとても重要です。

 

オプション1:Excel管理帳票の作成に必要なデータ(数値・値など)を整理してマスタ化

オプション2:Excel管理帳票のデータ項目名を整理する(重複や曖昧さを回避)

※オプションによって、データレイク構築やシステム導入に有効活用が可能となる

 

イメージを伝えるストーリーの作り方は以下の通りです。

 

作り方1 :シナリオは、エンド・トゥー・エンドで考える。“データ”は入力、計算処理、出力を整理する。

作り方2 :“データ”はマスタ化する。そのために“データ”の名称を統一する。

作り方3 :すべての工程を整理して、例外処理や曖昧な処理プロセスは内容を見て可能ならば標準化しておく。想定外の例外処理は必ず生じるので、例外処理を組み込んでおく。

作り方4 :関連する複数のシナリオを並べてみて、関連する接続ポイントを確認しておく。接続ポイントが、データレイク構築やシステム導入の中心となることが多い。データの取得タイミングやメタデータ、誤入力などによる処理の取り消しやエラーを想定したときのリカバリシナリオを作る。

作り方5 :誤入力によるリカバリシナリオも標準化しておく。リカバリ処理が煩雑で、誤入力が生じたときの業務負荷が過大だと思われる場合には、業務シナリオや各処理プロセスを見直す。

作り方6 :シナリオストーリーは必ず利用者複数に見てもらい、違和感や齟齬が無いか確認する。シナリオは変化するので、適宜見直す手順とその履歴を記録しておく。

 

 

 

業務改善やシステム導入などを行うときに、現状業務の“データ”と“シナリオ”を把握しておくことは、コンサルタントの基本的なスキルとして身につけておくべきスキルです。しかし、最近ではこうした基本を理解せずに現状認識無くトップダウンで業務改善を押し付けたり、業務全体のバランスを無視してシステム導入したりするベンダが多くなったように思います。当然ですが、こういう押し売りベンダのプロジェクトは100%失敗プロジェクトになります。そして、コンサルタントのヘルプ依頼が来るのです。(ごちそうさまです)

 

まとめ

前回と今回はコンサルタントにとって有効なスキル(その1&その2)として、基本的で身につけておくと有効なスキル(その具体なイメージ)をご紹介しました。コンサルタントの極意(?)というほどのものではありませんが、どんな場面でも使えるテクニックです。今回のスキルは、お客様ごとに違っている業務を理解するツールでもあります。1つ1つ丁寧に集めていくと、それがとても貴重な資料になるはずです。こうしたシナリオが10件、20件と貯まると、これを見返すだけであなたはその領域に精通したプロフェッショナルとして認められていきます。地道な作業ですが、この作業がレベルアップには欠かせないことなのでぜひ頑張ってください。ここでしっかりレベル上げしておけば、大技やオリジナルスキルを身につけるのが楽になります。(実は裏技かもしれません)

 

 

著者紹介

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

同志社大学工学部化学工学科卒業(生化学研究室)、1989年米国総合化学デュポン社(現ダウ・デュポン社)入社、1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(プロセス系:化学プラントや医薬品開発など、ディスクリート系:組立加工工場や保全など)の業界および業務、システムの調査・企画・開発・導入の支援に携わる。2015年より一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)サポート会員となり、総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリストなどを務める。その他、エッジAIベンチャーのエイシング社アドバイザーなど。
著書:「デジタルファースト・ソサエティ」日刊工業新聞社 (2019/12/11)
共著:福本 勲  (著), 鍋野 敬一郎 (著), 幸坂 知樹 (著)