【最新テックトレンドの裏側】第2回:専門以外の業務知識がコンサルとしての価値を高める「サイドナレッジ」

更新日:3月19日

 

 

はじめに

筆者が学んだのは化学工学という分野で工場のプラント設計や運用なのですが、現在はIT業界で基幹系のERPやSCM、工場系のMES/MOMに関わるITコンサルティングが本業です。もちろん、はじめからからこのような仕事を目指していたわけではありません。ITは趣味として、コンピュータはシャープのMZシリーズやアップルのMacintosh SEなどから40年以上趣味として触り続けていました。本業は化学工学ですが振り返ると、学生時代から30年間余りの社会人としてのキャリアと趣味スキルが現在の業務系ITコンサルタントというお仕事に繋がっています。

 

工場系エンジニアという専門技術にあまりこだわらず、仕事を頼まれたらとりあえずやってみるというスタイルと、趣味だったコンピュータ関連の知識がうまい具合に融合していました。今回は本業ではない領域の知識と経験を、サイドビジネス(副業:side business)になぞらえて「サイドナレッジ(副知識:side knowledge)」と仮称してコンサルティングのスキルと経験についてお話したいと思います。

 

本業ではない業務こそ学ぶべき、はじめての経験が可能性を広げるチャンス

学生時代に学んだのは化学工学と分子生物学なのですが、新卒で入った企業は米国総合化学会社で、そこで配属されたのは農薬事業部の営業担当でした。農業は全く知らない分野だったので、入社日に配属を言われて目が点になりました。同じ事業部の同僚は筑波大学の農学部で大学院を卒業した人でした。(配属はつくばの研究所)同期は31名で、いまもその会社に勤務しているのは10名も居ないのですが、会社は違っていても定期的に同期会をするくらい仲良しです。

 

3ヶ月間の入社全体研修を終えて、配属された農薬事業部で約ひと月部内の先輩から部門ごとに研修を受けました。研究所、開発、営業、業務(委託製造だったので委託先工場の管理など)、技術普及(農薬という製品に必要な行政対応や流通向け技術サポート、宣伝広告、広報など)という感じです。

 

そして、約4ヶ月間の短い研修を終えると自分の配属された営業(大阪)へ正式配属となりました。私の教育係をしてくれた先輩は、合気道の先生で一見強面ですがとても優しいきめ細かい配慮の人でした。配属してその先輩から言われたのは、「和歌山の農薬卸に行って、その会社の倉庫で配送業務を手伝って来い」というものでした。「わからないことはなんでも、そこの人に聞いて教えてもらえ」だったのですが、農薬どころか農業は全く知りませんし、社会人としての挨拶すらまともに出来ませんでした。

 

結局、現地に行って作業服に着替えて指示されるがまま毎日倉庫で農薬を運んでいました。時折配送の手伝いもして、トラックに同乗して農協や農家さんを廻って農薬の積み下ろしをやっていました。正直なところ、バイト以下の働きしか出来ませんでした。しかし、先輩から十分な接待交際費を渡されていて「お世話になるのだから、食事代は全部お前が払っとけ。領収書は全部俺が経費で処理してやる」と言われていました。という次第ですから、毎晩のように倉庫でお世話になっている方々や先輩が懇意にしている役員や社員と食事に行きました。

 

この経験は、ひとりで営業活動をするとき、物流業務やサプライチェーンを考えるときにこの実体験が足掛かりを掴む貴重な経験となりました。私は、ここで農薬流通やメーカー名、商品名、倉庫管理、物流配送業務、コミュニケーションのとり方など全てを学ぶきっかけを得ました。たった2週間でしたが、毎日が新鮮な驚きの経験で、作業はことごとくダメでしたが「大学出の新卒ならしょうがない」という寛大な扱いを受けていました。初心者という立場は、なんでも許してもらえるうえに、夜の食事でお詫びが出来る居心地の良い環境でした。仕事は全然出来ませんでしたが、毎日がとても楽しかった思い出です。

 

良い仕事をするためには、業務に対する十分な知識と経験が必要不可欠です。しかし、誰でもはじめは初心者です。良いスタートが切れるかは、どれだけその環境に馴染めるか、良い仕事が出来るかが重要なのですが先輩はその最高のきっかけを作ってくれました。

本やネットで知識は得られるけれど、経験やアドバイスは実際にやってみなければ有り難さは分かりませんし、コツやノウハウを身につけるためには人から教えてもらう以外に手はありません。“とにかくやってから考える”スタイルです。馴染めば、次第にスキルになります。馴染めなければ、辞めればいいだけです。こうして、私は技術や知識を追求するのではなく、頼まれた仕事を求められた通りに返すことを目標にしてきました。営業、マーケティング、広報、新製品開発、システム開発など頼まれた仕事は“とにかくやってから考える”スタイルを通しました。基本的にこのスタンスは今も同じです。

 

サイドナレッジ習得のススメ、セミプロ知識と経験がコンサルの幅を広げる

技術や知識を極めるのではなく、実際の作業から知識と経験を学びます。業務もシステムも、基本的に同じスタイルで臨みます。これまで企業向けシステムは、バックオフィス業務と呼ばれる経理業務や事務処理を中心にシステム化が行われてきました。しかし、昨今求められているデジタル化とは工場の生産業務や営業活動、研究開発からアフターサービスまで会社の全ての領域に広がっています。

 

テクノロジーはどんどん進化しますが、業務のやり方は緩やかに変わりますから、進むテクノロジーをいまの業務に馴染ませる工夫や発想がポイントとなります。ここで、『業務経験』が重要となります。座学で知識として知っている倉庫配送業務より、たった2週間でも実体験で経験した倉庫配送業務の方がはるかに得ることが多いのです。

 

私の場合、30年も前の新入社員事例の経験ですが、最新の物流センターを見学すると最新テクノロジーがどこで置き換わったのかひと目で分かることに気づきました。手間と時間が掛かる業務から、ロボットや自動搬送機など新しいテクノロジーが採用されてシステムに置き換わっています。簡単に出来ることではなく、人手でやって難しい仕事のシステム化がデジタル化で望まれる範囲なのです。そこに気づくことが出来れば、コンサルタントとして目利きできる即戦力になれます。

 

担当者として業務経験を積むことと、コンサルタントとして業務をカイゼン・革新する仕事の分かれ目はどこにあるのでしょうか。

 

倉庫配送業務を毎日行って、そのあと現場のみんなと食事をする毎日でしたが、私には1つだけ現場の方々とは違う仕事がありました。それは、翌朝までにA4で1枚のレポートを書くことでした。その日にどんなことを行ったのか、どんな成果があったのか、次に何をいつまでにやるのか/やらないならその理由などを書けと指示されていました。書く項目は決まっていて、ボリュームも必ずA4で1枚を超えてはならないとされていました。

 

この報告書(CALL REPORT)が、今振り返るとコンサルティングの基本スキルにつながっています。コンサルタントの資質のひとつに、“観察して取り纏める”スキルがあります。報告書を書くためには、客観的な観察力とこれを簡潔にまとめて書くスキルが求められます。当時は1年間で250~300枚程度の報告書を書いていましたから、ほぼ毎日最低1枚書いていました。この書くスキルはコラムを書くスキルやパワーポイント1枚にまとめるスキルに発展しています。

 

先輩にFAXで送った報告書ですが、毎日いっぱい赤ペン添削されました。商品名が違うとか、文章が分かりにくいとか、具体的な成果がないなどです。ずっと後に、「あのコメントを付けるために、何度も読み返して1時間以上かけて書いていた」と聞きました。たった30分で書いた報告書を、1時間掛かって毎日添削してくれていた先輩に頭が下がる思いです。

 

ユーザー企業側のアドバイザーや支援業務をしながら、いろいろなベンダやコンサルファームからの資料や提案を見る機会が良くあります。良い資料や提案書は、お客様側の目線で分かりやすく読みやすいということを感じます。

 

ざっくりとした傾向ですが、国産ベンダは説明書のような資料が多く提案書も製品紹介も大差ありません。つまり、ユーザー目線ではなく一方的な製品紹介にお値段が付いているパターンが多いようです。外資系ベンダは、具体的なシナリオベースでストーリー仕立てに機能やメリットが説明されていて基本的には良いのですが、事例が海外しか無い場合や担当者のスキルが低いと的外れな内容になっています。(筆者もそういう失敗を何度もやっていて、お客様から“この内容だと100回聞いても分からない”と言われたことがあります。)

 

コンサルティングファームのなかでもアクセンチュアの提案書は一読するに値するハイクオリティのものが多く、①市場動向について、②お客様の現状と課題分析、③お客様が目指すべきゴールと必要と思われる要件、④課題解決に必要となるシステムとその機能、導入による期待効果、⑤成功するために必要なお客様側の体制や条件など、⑥プロジェクトの進め方や管理手法など、⑦成果物や役割分担などが、わかりやすい章立てでしっかりと書かれています。

 

①と②だけでもお金払うから読みたいという内容なのですが、実はこの①と②が他社との差別化ポイントなのだそうです。③以降は、どのベンダでもそれほど大きな差は無く、誰がメンバーに入るかと費用が違うだけです。つまり観察力と分析能力が、コンサルティングの要だということが良くわかります。

 

そして、分かりやすく訴求するためにはドキュメント化しなければなりません。報告書や資料作成の能力が求められます。サイドナレッジは、そういうコンサルティングスキルを習得する良いチャンスだと思います。

 

まとめ

今回は本業じゃない業務の知識と経験が、コンサルタントという仕事には有効なスキルを身につけるチャンスだというお話を、サイドワーク(副業)を捩って「サイドナレッジ(副知識)」という言葉で私の経験から説明してみました。

 

上手く伝わっているのか、少し心もとないのですが、なんとかイメージをお伝え出来ればと思います。テクノロジーの進化は早いのですが、業務の変化はそれほど急激に進みません。少しずつ変化していきます。その変化ポイントを見極めることが出来れば、新しいやり方やチャンスを見つけることが出来ます。新しいこと、知らないことには、積極的にチャレンジしてみることを強く勧めます。サイドナレッジを身につけるには、“とにかくやってから考える”スタイルを通せば良いと思います。

 

筆者紹介

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

同志社大学工学部化学工学科卒業(生化学研究室)、1989年米国総合化学デュポン社(現ダウ・デュポン社)入社、1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(プロセス系:化学プラントや医薬品開発など、ディスクリート系:組立加工工場や保全など)の業界および業務、システムの調査・企画・開発・導入の支援に携わる。2015年より一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)サポート会員となり、総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリストなどを務める。その他、エッジAIベンチャーのエイシング社アドバイザーなど。

著書:「デジタルファースト・ソサエティ」日刊工業新聞社 (2019/12/11)

共著:福本 勲  (著), 鍋野 敬一郎 (著), 幸坂 知樹 (著)