【最新テックトレンドの裏側】第1回:DXの前に取り組むべきテーマ「DX人材」
更新日:2月26日
はじめに
縁あって、こちらでブログの連載をさせて頂くことになったフリーランスのコンサルタントです。筆者は、米国外資系総合化学メーカーの事業部門に約10年勤務したあと、ドイツITベンダで5年間ほどマーケティングやアライアンス、プリセールスコンサルタントに従事し、2005年に副業として設立した会社に何故かコンサルティング依頼を頂いてより15年余り、コンサルティングがいつの間にか本業になっていたという経歴を持ちます。気持ちはエンジニアですが、お仕事はコンサルタントになってしまいました。ここのサイトはコンサルタントやコンサルタントを目指す方々が多く来られるところだと聞いていますので、ご同業者も多いことからここでは私が関わったプロジェクトや経験より「最新テックトレンドの裏側」と題して、IT系や業務系の最新テックトレンドから裏舞台のノウハウやコツ、失敗談などについて触れてみたいと思います。今回は初回ということもあり、取り上げたいテーマは「DX(デジタル・トランスフォーメーション)の裏側」というネタでお話してみたいと思います。
「DX人材」が足りない!とは具体的にどんなスキルや経歴を意味するのか
IT業界あたりで最近流行りのバズワードがDX(デジタル・トランスフォーメーション)です。DXとは何か?というのは、ネット検索すればいくらでもヒットするのですが、DXを実現するのに欠かせない「DX人材」とはどんなスキルや経歴を持っている人材なのでしょうか。“DX人材”で検索すると、技術スキルを持ったエンジニアであるとか、ビジネスモデルや業務に精通した見識をもつという記述に加えて、“デジタル”と“データ(またはデータサイエンス)”に精通しているのがポイントのようです。筆者の知人がDX人材について、コラムを書いていました。(「DX人材」3つの論点を解説、能力・採用・組織風土はどうするべきか?)
これを参考に、DX人材のイメージを考えてみたところどうやらITの知識やスキルを持っているだけではないようです。これらの情報から推察すると、「DX人材」に求められる条件として、①技術スキルを持っている、②ビジネスモデルや業務に精通している(事業企画や経営企画の経験)を持っていて、さらに③デジタルとデータにも詳しい人材ということになります。
IT業界では『DXあります!できます!』という謳い文句でコンサルティングを売り込んでいるベンダさんも多数あるようですが、①技術スキルはあるとしても、お客様企業や所属する業界の②ビジネスモデルや業務に精通しているようには思えません。もちろん、そういう人も居ますが、希少だと思います。ぶっちゃけITベンダ向けの勉強会で、メーカー時代に培った知識と経験から、製造業や流通業の業界勉強会を何度もやり、実際に企業のマーケティングや製品開発に関わったりした経験から考えて、ITベンダに所属していて業界専門知識やその具体的な業務について知っている人は多くないと言えます。ITベンダの大半は、DXという枕詞で自社製品を売り込みたいというのが本音でしょう。
コンサルタントとして「お客様から評価されるDX人材」になるためには、ビジネスモデルや業務に関する専門知識の習得(経験は実際にそういう業務に携わる必要があるので習得するのは難しい)、デジタル化についてはアナログ(属人的な紙やExcelなど)をデジタル(数字や値をデータベース化する)にするスキル(これもそれなりに難しいです、特にクラウド基盤にデータを収集する仕組みの構築など)、データおよびデータサイエンスの経験(統計解析ツール)と知識は座学とツールのトレーニングで可能(筆者が薦める書籍は、「図解入門ビジネスビジネス 最新データ流通ビジネスがよ~くわかる本」データ流通推進協議会(監修)2,200円、「データ・ドリブン・エコノミー デジタルがすべての企業・産業・社会を変革する」著者:森川博之1,760円、です。興味がありましたらネットで書評など御覧頂いて、よろしければ読んでみてください。いずれにしても、プロジェクトに関わりながら習得するのが、コンサルタントとしての早道だと思います。
最新テックトレンドについて、製造業の見える化とIT x OTデータレイクについて
筆者は、基幹系システム(ERP/SCMなど)と工場系システム(MES/SCADAなど)およびIoTに関連する業務カイゼンやシステム構築に従事しています。ここ最近よく相談を受けるのは、SAPシステムに関する相談と工場系システムに関するものです。SAPについては、「SAPの2025年問題」という旧製品SAP ERPの保守期限切れに起因する新製品SAP S/4HANAへの移行に関する内容です。
そして、ここ最近増えているのが工場系システムのMES(製造実行システム)やOT系システム(OT:オペレーショナル・テクノロジー、生産を行うために必要な業務手順や生産コントロールに関わる技術)などです。
工場のシステムは、目指す目的に必要な情報の収集とシステムの構築から始まります。つまり、データ収集・解析・可視化など、従来のスクラッチシステム開発、パッケージ導入、複数システム連携など幅広い対応が求められます。これらを繋いで全体をバランス良く見据えた仕組み作りが製造業のDXプロジェクトの狙いだと言えます。
製造業DXの本質は“デジタル化”ではなく“プロセス革新(Transformation、Process eXchange)”によってこれまでのプロセスよりも大幅に処理スピードや効率を高める取り組みによることです。10%の生産性向上や20%のコストダウンはDXではなくカイゼンで、2倍、3倍の生産性アップや半分以下、3分の1以下のコストダウン、納期短縮を狙うのが製造業DXの目指すべきゴールだと言われます。つまり、生産全体を俯瞰した大胆なプロセス革新の発想が求められます。
留意点は、デジタル化(システム化)に加えてプロセス(連携する工程)を大きく見直して高い効果を狙うのです。(プロセスを無くす、ショートカットする、自動化するなど)製造業では、バックオフィス系の基幹システム(ERPなどIT系)と工場系システム(MESなどOT系)を統合、連携してDXにフォーカスした方が高い効果を出すことが出来ます。
OT系システムの構築は業務知識やお客様の工場/部門ごとの言葉の定義と取得できるデータ(数値、値、ON/OFFなど)が部門ごとラインごと設備ごとに異なりますので、過去に同業界のシステム導入があるからと言って都度確認せずに思い込みでシステム化すると確実に嵌ります。また、同じ企業グループの異なる工場/生産ラインで共通する業務や管理要件を揃えることで、企業グループ内のプロセス標準化や工程の自動化、省人化を実現することが出来ます。OT系システム構築のポイントは、生産ラインの全行程(オーダーから出荷まで)の工程を俯瞰して各工程で取得するデータとその管理、工程間の連携、取得したデータの可視化(見える化、レポートや管理帳票)を整理することです。
OT系システムに取り組む場合に、確認するコンサルティング項目は以下の通りです。
・チェック1:生産ライン全工程(エンド・トゥ・エンド)、BOM/BOP情報(内容洗い出し)
・チェック2:全ての管理帳票(紙、Excelなど)、レポートなど(ナンバリング、出所解析)
・チェック3:データの所在、IN/OUT管理部門/管理者/利用者、データタイプ、履歴
・チェック4:全システムの洗い出し(システム、エクセル、アクセス、マクロなど含む)
・チェック5:業務革新による狙い(生産、在庫、保全、品質、コスト、トレサビなど)
スタート地点は地味で膨大な書類とデータから始まりますが、ここに成功に至る糸口が隠されています。大きな鉱脈を見つければ、その成果も大きくなります。
OT系システムに関しては、これまでは業務の自動化や効率化を狙った仕組み構築や見える化が主流でしたが、最近ではIoT導入(PoCや実装、全社展開など)やOT Data Lake(OT系統合データ基盤)の構築といったセンシングデータやこのデータをAI解析したプロジェクトが急増しています。その背景には、データ駆動型(データドリブン)ビジネスへの取り組みによるスマートファクトリー、スマートマニュファクチャリングの実現を目指していることによります。その中でも、自社独自データを取得収集、解析することでAI開発や新しいビジネスモデル創出に対する姿勢が感じられます。こうした取り組みは、比較的大手企業での取り組みが多いのですがほぼ全てがPoC止まりとなります。その原因は、経営トップの関与が少なく中長期的なプロジェクトを維持出来ないサラリーマン社長が多い保守的な体質にあると思われます。逆に、中堅中小企業でも経営トップに危機感がある場合には、短期間でPoCから実装、1つの工場から全社展開に成功しています。スピードと機動力が勝敗の分かれ目となります。OT系システムの取り組みは、サービス化(ソフトウェア開発、サービス開発提供)と独自サービスの元ネタとなる独自データ基盤(OT Data Lake構築)の2つに分ける事ができます。製造業のサービス化と、IT x OT Data Lake構築についての内容は、いずれここでご紹介したいと思います。
まとめ
今回は初回ということで、「DX人材」というテーマから最新テックトレンドと求められるコンサルタントのスキルとビジネス経験について筆者の経験や現在関わっているプロジェクトからご紹介しました。コラムタイトルに”裏側”というキーワードを入れている通り、実際のコンサルティングノウハウや経験に基づいたポイントやコツについてもご紹介していきたいと思います。読者の皆様もご存知の通り、コンサルタントという肩書に資格や免許などはありませんし、当然誰かが保証してくれるわけでも有りません。自分のスキルと実力(結果責任)だけで、コンサルタントとしての証明をしなければならない仕事です。ここでは、最新テックトレンドにコンサルタントに関わる方々の参考情報や今だから言える昔話をお伝えできればと考えております。
筆者紹介
鍋野 敬一郎(なべのけいいちろう)
同志社大学工学部化学工学科卒業(生化学研究室)、1989年米国総合化学デュポン社(現ダウ・デュポン社)入社、1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(プロセス系:化学プラントや医薬品開発など、ディスクリート系:組立加工工場や保全など)の業界および業務、システムの調査・企画・開発・導入の支援に携わる。2015年より一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)サポート会員となり、総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリストなどを務める。その他、エッジAIベンチャーのエイシング社アドバイザーなど。
著書:「デジタルファースト・ソサエティ」日刊工業新聞社 (2019/12/11)
共著:福本 勲 (著), 鍋野 敬一郎 (著), 幸坂 知樹 (著)