コロナ収束への道をゆっくりと進むサンフランシスコ現地事情:第1回
更新日:3月26日
はじめまして。今月から、「カリフォルニア・ベイエリアからの現地事情通信」をテーマにコラムを書かせていただきますコンサルタントの安藤と申します。毎月、「現地の温度感」が伝わるような話題をお伝えして行きたいと思います。よろしくお願いいたします。
さて今回、初回ということで、ようやくワクチンの実用化により「コロナからの回復の道」が見え始めたカリフォルニアの現地事情をお伝えします。
現状:やっと自宅待機令の緩和を開始
日本でも冬の間に感染者数が急増ということで緊急措置がとられていますが下の表のように、特に人口比で比べてみるとカリフォルニア州の危機感は強い、と言えると思います。
コロナ患者数の比較
11月末のサンクスギビング、12月末のクリスマスとアメリカでは例年、家族親戚が集まる行事が続き、自粛を呼びかけたもののすべての人に浸透するわけではなく、12月に感染者数の急増によりカリフォルニアでは夏以来解除されていた自宅待機令が再び敷かれました。
ようやく1月末になり新規感染者数、病院の空き状況とも改善傾向が見られたため自宅待機令が部分解除され、飲食店などの一部営業開始が始まったというわけです。
出所:Covid19.ca.gov
レストランなどの屋外営業が認められたのが1月25日の週。その週の夕方には早速、雨が降って肌寒い天気などにもかかわらず、屋外のパティオで営業しているレストランは夕食客で賑わっていました。
約1年近いロックダウン生活、本当に必要な時以外は自宅から出ない、人とも会わない(家族で散歩など他の家庭と隔離された状況ではOK)という生活を強いられてきた後なので理解できるところ。
こういった自宅待機令の解除が進むかどうかは、コロナの感染による健康上の危険と、ビジネス(特に中小企業等の事業・雇用など)へのマイナスの影響のバランスをとって行われるのですが、直接の引き金となるのはその地域の病院にどれだけ受け入れの余裕があるかどうかで、特に、ICU(集中治療室)のベッド数の空きが15%以下になると予想されると、また外出禁止令が敷かれることになります。
解除令はかなり、「いきなり」という感じで出されることが多く、レストラン側でもそれを予想して屋外での営業にすぐに対応できるところは良いが、対応に時間がかかるレストランもあり、経営者にとっては大変なところです。
気候の良いカリフォルニアですので夏の間は外にテーブルと椅子を並べればそれで済んだのですが、さすがに冬の夜はそれだけでは寒く、よほど暖房がなければ座って食事することは不可能。レストラン側も対応に追われているところです。
映画館も3月以来閉館(筆者撮影)
州・地域による対応の違い
米国でのコロナ事情を語る際、簡単に答えにくい理由の一つは、コロナ対応・自宅待機令・営業の許可の有無が州によって違うだけではなく、カリフォルニア州・サンフランシスコを中心とするベイエリアの中でも群(County)によって状況、対応がかなり違うからです。(また、州毎の政府によるバラバラな対応がそもそも今回、米国での感染者数が人口比率で多い原因の一つという分析もあります。)
下の図はサンフランシスコを中心としたベイエリアエリアの9つの群ですが、コロナの感染状況により色分けされており、現在、9群のすべてが営業再開(Reopening)に向かう中ででまだ1番感染状況が厳しい「紫」となっています。
紫で営業可能なのは、屋外での飲食業のほかにヘアサロン・動物園などがあります。安全な色分けに進むにつれて屋内での営業など、可能な事業が増えます。
出所:NBC
逆に、まだ営業が認められていないのは、屋内で顧客が長期滞在する事業、例えばバーやスポーツジム、美術館、映画館なども含まれます。
「紫」ランクで営業可能・不可能なもの
ワクチン投与
ヘルスケア関係者、シニアなどが優先
さてコロナ対策で一番期待されるワクチン投与ですが、全米と同じくカリフォルニアでもまず、医療関係者が最優先。そして医療従事者への接種が行き渡るのに連れ、次にリスクが高いとされるシニア、65歳以上の州民に優先的にワクチン接種を行うことになっています。
1月末現在でのワクチン投与状態はカリフォルニア全体で医療従事者に対する投与が既に約340万本、また1回目と2回目の接種を含む合計約476万本のワクチンが出荷済みとされています。また、2月初旬の時点でワクチン大量投与のため、野球場・競馬場など大規模施設に軍隊を動員して接種をする準備がされている、と報道されています。
しかし一進一退の懸念も?
このように、一件コロナの収束に向かいワクチン投与やビジネスの再開が進んでいるように見えますが、住民の間では「やっと外出できる、外食できる楽しさ」と共に、こういった「再開」によってまた感染が広がる一進一退状態への懸念も根強い。
サンクスギビングやクリスマスなどの人が集まる行事シーズン後に感染者数が急増したように、急な再開により外出する人が増えることが又感染増を引き起こすのではないかという心配です。
例えばカリフォルニア大学バークレー校では1月末、キャンパス内の学生の感染例が急増しているとの勧告を発表。コロナテスト件数の3.2%にあたる44名が陽性反応を示し、これは8月以来の陽性率0.4%を大きく上回る為、急遽学生の隔離を含む措置が検討されています。
どうして蔓延?
さて、新型コロナはもちろん、世界中を巻き込む問題なのですが、特に先進国であり医療技術や体制も進んでいる(とされている)米国でなぜここまで感染者数、死亡数とも大きく増えたのか、という疑問があります。特に日本を始めとするアジア諸国に比べると人口比率では桁違いに多数です。
前述の表にあるように、「深刻な問題」化している日本と比べても桁が違いますし、私の行く美容院は美容師さんがベトナム出身なのですがベトナムではもう既にほとんど正常生活に戻っている、と話していました。
アジア系人種には遺伝的に免疫力がある、BCG接種の影響があるなど色々な説があり一概には言えないのですが米国でコロナ対策が進まなかった社会的・思想的要因としては次のようなキーワードがあると思います。
・ 根強い「統制」への不信
・「命令されない」権利(=マスクしない権利)
米国は「自由の国」、「個人の自由の権利が保障される国」であるという思想が根本にあり、例えば「銃を持つ権利」もこれに当たります。何度、集団銃撃事件で多数の犠牲者が出る、子供達が犠牲になるなどの痛ましい事件が起きても国のリーダーである政治家にとっては「銃を持つ権利」を保証した憲法修正第二条に触れることはタブー。
それと同様にコロナの感染を抑えるために「マスクをするように」といくら説得されても、「マスクをしない権利がある」「マスクの強制は個人の自由の権利に反する」と反発する人口が、地域にもよりますが根強い部分があります。もちろん個人の自由は大切なのだが今回のように「集団の利益を優先し、感染を防ぐ必要がある」場合にはやはりマイナスに働くようです。
自宅待機令が解除されたときのニューサム・カリフォルニア知事のビデオ中に「Your Actions Save Lives(あなたの行動が命を救う)」という部分がありましたが、今回のコロナの感染事情についても、ここが鍵ではないか(すなわち集団の利益の為に個人の行動をどの位変えられるか)と思います。
自分がマスクをする、外出を控えるなどの行動によって命を救えるのであったら当然ではないかと思われるところですが、それが必ずしも通らない(どこの国でも反発する人はいるかもしれないが米国では「命令するな」層が多い)のが難しいところ。
ユーモアで少しは救い?
ところで、こういう逼迫状況になっても、アメリカらしいなあと思うのがユーモアが絶えないところです。日本でもネット上で色々ミームなどは見られると思いますが、日米に生活してきて「深刻なときほどユーモアでなんとかバランスを取る」のが米国の一つの特徴という気がします。
一例としていつも食料品買い出しに行くトレーダー・ジョーズの「入店前の行列」に立っていた看板。行列は「ソーシャル・ディスタンス令」を守って前後の人との間を6フィート(180センチ)開けなければいけないのですがそれを「6フィート開けろ」の代わりに、
「大人のカンガルー一匹分あけてください」
多少列が長くてイライラしかけてもこれを見てつい、気分がちょっと愉快になるのは私だけではないと思います。ワクチン投与が行き渡るまでなんとか、これで切り抜けたいものです。
著者紹介
安藤千春/ Chako Ando
米国ベンチャー・イノベーションコンサルタント。サンフランシスコ・ベイエリアを拠点とし、米国の先端事例を参考に新規事業・リモートワーク・米国ベンチャー企業・イノベーション手法・フィンテック業界の調査、投資案件、日本企業との橋渡しを業務として活動。Cando Advisors LLC 代表。
(経歴)スタンフォード大学経営大学院修士(MBA): 東京外国語大学英米語学科卒業。旧日本興業銀行サンフランシスコ支店にてベンチャー・ファンド投資、住友銀行キャピタル・マーケッツ(NY)にてデリバティブ部門、大和証券ニューヨーク現地法人にてM&A、企業提携を担当。松井証券などのオンライン株式トレーディング・システム開発ベンチャー、ファイテック研究所の設立に参加。